いろいろ似ている“過重労働防止の議論”と“野球の登板制限の話”
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少し前から、高校野球での投手の投球制限に関する話題が出ています。投球過多による酷使や故障、選手寿命の短縮を防ぐ目的で、いろいろな内容を検討しているようですが、まだはっきりとした結論は見えていないようです。
この議論を見ていて気づいたのが、ここ最近の残業制限緩和の動きと合わせて議論されている、過重労働防止に関する内容と意外に共通点があることです。
過重労働対策として挙がる項目の中に、時間キャップ制とインターバル規制があります。時間キャップ制はすでにあるような労働時間や残業時間の上限規制、インターバル規制は一定時間数を働いた後、次の勤務開始までの時間間隔に関する規制ですが、これを野球の話題と重ねてみれば、時間キャップ制は投球数制限、インターバル規制は登板間隔制限に当たるのだと思います。
これを実際に行おうとした時に、考えられる問題点もよく似ています。
野球の場合、メジャーリーグなどでは先発投手の球数制限や登板間隔制限が確立していますが、それは相応の実力がある投手の人数が、チーム内にそろっているからできることです。
もしこれが日本の高校野球などであれば、一チームに力のある投手を複数そろえることはなかなか難しく、結果が得たいと考えれば、どうしてもエースに投げさせたいので、一人を酷使する状況になりやすいでしょう。弱小チームほど結果を出すハードルが上がります。
ビジネスの世界でも同じで、大企業のように企業体力があるところであれば、そこには多くの人材がいますから、時間数やインターバルに規制があっても、それなりに守ることができるでしょう。
しかし、人材豊富とはいえない中小企業であれば、なかなかそうはいきません。大企業に比べて、さらに属人的な傾向が強く、何人かの中核人材がいて、その人たちが中心で動かなければ仕事が回らないということが多々あります。その人たちに頑張ってもらわなければ業績は保てませんから、一部のコア人材やエース人材に仕事が集中することとなります。
同じ規制でも、それぞれのチーム事情、会社事情でインパクトが違ってくるところはそっくりです。
このように野球とビジネスという異なる世界であっても、「人の酷使を防ぐ」という観点から出てくる課題は、意外に似た内容です。
ちなみに、中学生の硬式野球を統括する団体では、すでに投球制限に関するガイドラインを昨年4月に出しています。主には投球数と登板間隔に関するもので、他にも練習を含めた全力投球数の目安なども示され、すでに完全適用されています。成長期の子供が対象なので、「最優先は酷使を防ぐこと」と考えた結果だと思います。
一方、労働環境に関する議論で、厚生労働省の取り組みとして出てきているのは、このような姿勢とは少し違ったものになっています。私が最も違和感があるのは、“成長戦略”と“過重労働防止”という、本来は別の目的であるものが混在して議論されているように感じることです。
そのせいか、出されている施策に妥協やブレがある印象ですし、そもそも成果主義的な報酬制度や裁量労働制が成長戦略だといっている点も、今一つしっくりきません。時間キャップ制やインターバル規制の話は、それが良いかどうかは別にしてあまり議論されていないようです。
本来の目的がブレてしまうと、良い結論にはなかなか達しません。
労働環境に関する議論は、多くの人の働き方に影響することです。私もこのあたりの今後のなりゆきは、しっかり見ていきたいと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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