ポリオ(急性灰白髄炎)は、「小児麻痺」 とも呼ばれ、わが国では昭和35年に大流行しました。
そのポリオに罹った人たちが、いったん回復して元気に社会生活を送ってきたのに、中高年になって新たな筋力低下や異常な疲れやすさなどの症状に悩まされることがあります。
これを「ポリオ後症候群(ポストポリオ=略称PPS)」といいます。
ポストポリオの障害認定については、平成18年2月に通達 が出され、一定の条件を満たせば幼少期のポリオとは別の疾病として障害厚生年金の支給対象とされることになりました。
社会保険庁(当時)の通達
この取扱いに、どんな意義があるかといいますと・・・
幼少期のポリオが重症化したものとして認定されると、「20歳前障害による障害基礎年金」となり、2級以上でなければ年金が受けられないうえに、所得制限があります。
一方、働くようになってから発症したものとして障害厚生年金の対象となれば、3級以上で年金が受けられ、所得制限もありません。
3級より軽い障害の場合には、「障害手当金」 という一時金の給付もあります。
私は以前、ポストポリオに苦しむ患者さんとお話をしたことがあります。
Aさんは、幼少期のポリオが回復し、片脚に若干の麻痺を残しながらも元気にバリバリ働き、出張であちこち飛び回り、役職に就いて高い収入を得てきました。
ところがあるとき、出張先で高熱が出て、しばらくして脚に痛み・しびれが発症し、筋力低下で歩行が困難になりました。
それまでと同じ仕事ができなくなり、手当てが減って給与が下がりました。
そんなAさんが障害年金を請求したとき、ポストポリオとして認定されれば、障害基礎年金に上乗せして、高い給与に基づく障害厚生年金が受けられます。
しかし、「20歳前障害による障害基礎年金」となれば、たとえ2級に認定されても所得制限で支給停止になってしまいます。
この違いは大きいです。
なお、ポストポリオで障害年金を請求するときは、平成18年2月の通達 を利用することをおすすめします。
医師に診断書を書いてもらうときに通達のコピーを見せ、障害年金の裁定請求書にもそれを添付するのです。
医師の中には、「ポリオ」と「ポストポリオ」の区別をきちんと認識していない先生もいます。
年金事務所の窓口ではさらに、この疾病のことを理解していない職員さんもいますから、
「ポリオは小児麻痺ですから、20歳前ですね。 厚生年金は請求できませんよ」
と言って受理してもらえないこともありえます。
そういう混乱を避けるための工夫は、必要だと思います。
実際に、会員がポストポリオで障害年金を請求する際には、平成18年2月の通達 を利用するよう推奨している患者団体もあります。
このコラムの執筆専門家

- 服部 明美
- (埼玉県 / 社会保険労務士)
- 社労士はっとりコンサルティングオフィス 社会保険労務士
お客様の「こころ」に寄り添う社労士でありたい
職場のメンタルヘルスと年金関連を得意分野としております。就業規則の作成や見直し、休職・復職規程、衛生委員会の運営指導、社会保険制度説明会等、原稿の執筆や講演、社員研修の講師依頼など、お気軽にお申し付けください。
「年金」のコラム
未支給年金を請求できる人の範囲が拡大されました(2014/05/10 22:05)
妻を亡くした男性の遺族年金が変わりました(2014/05/06 21:05)
平成24年度の年金額は0.3%引下げ、国民年金保険料は40円値下げ(2012/01/28 01:01)
年金見込額が異常に低い人、厚生年金基金加入歴があるのでは?(2011/12/28 14:12)
このコラムに類似したコラム
障害年金について 三井 倫実 - 社会保険労務士(2013/09/13 13:51)
【年金】1/30(水)糖尿病・人工透析・がん患者さまのための障害年金セミナー 高橋 成壽 - ファイナンシャルプランナー(2013/01/11 13:43)
国民年金保険料の後納制度 藤本 厚二 - ファイナンシャルプランナー(2012/12/27 15:44)
【年金】がん患者さんのための障害年金セミナー 高橋 成壽 - ファイナンシャルプランナー(2012/09/19 11:49)
【ニュースリリース】「障害年金受給支援サービス」を発表 高橋 成壽 - ファイナンシャルプランナー(2012/04/24 10:40)