小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「やらせる」のではなく「仕向ける」
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私もいくつかの企業で社員研修をやらせて頂く機会があります。
経営者や研修担当の方は、当然何らかの効果を求めて実施されるわけで、こちらとしてもできるだけ早く、なおかつ高い成果が得られるように努力をしますが、中にとても短期的な成果を求める方がいらっしゃいます。「その研修をやるとどんな効果が出るの?」などと尋ねられたりします。
今の世の中のスピード感から、結果を急ぐ気持ちは理解できるのですが、スキルや知識習得ならまだしも、意識改革や行動変革ということになると、一度や二度の研修で何かが大きく変わることは、残念ながらものすごく少ないと思います。
私自身も今でこそ研修講師という立場が多くなっていますが、昔は特に社内研修というのは大嫌いで、何とかして出ないで済まそうとしていたクチでした。今にして思えば、興味もないことを強制されたくない、自分の時間を大して有益とも思えないことに費やしたくない、という気持ちだったように思います。
この気持ちが変わったのは、自分が聞いてみたいと思う人の話を聞いたり、興味がある内容のセミナーを受講したりということをするように(立場的にもそれができるように)なってからでした。
在席していた会社の人事部門のマネージャーの頃でしたが、その仕事柄も幸いし、体験セミナーを受講したり、様々な著名人の講演を聞いたりという機会が比較的多く、そのほとんどを自分の意志で選ぶことができました。やはりそうやって参加したものは、そもそも自分の心構えが違いますから、仮に同じことを言われたとしても受け留め方が全く違います。そんな中で、自分が社内研修に否定的だった頃の気持ちと重ね合わせ、単に「やらせる」のではなく、やって見ようという気持ちに「仕向ける」にはどうしたら良いか、ということを常に考えるようになりました。
私が講師をさせて頂く時に心掛けるのは、「いかに自分のこととして考えてもらうか」、そのために「原理原則や一般論、事例に関する話はしても、直接答えになりそうなことや強制していると取られそうなことは言わない」ということです。
ただ、それでも興味を持って頂けない方はいらっしゃいますし、もともとやる気がなく心を閉ざしている方や、適当にやり過ごそうとひたすら終わるのを待っている方もいらっしゃいます。自分の心掛けに反して、結果的に私が答えを言ってしまっていることもあります。その他私の力不足があるのは間違いなく、大いに反省している部分です。
しかし一方で、研修でできるのは、「気づきのきっかけ」を提供することしかありません。早く成果が出ればそれに越したことは無いですが、「気づき」は限りなくその人の主観に基づくもので、多くの場合はそれなりに時間がかかります。
あるところで聞いたお話ですが、教育(エデュケーション)の語源はエディカーレといって、ラテン語で“引き出す”という意味だそうです。もしその人に足りない物があったとしたら、それを与えてやるのではなくその事実に気づかせ、気づかせた上で引き出すための手助けをする、これが本来の人材育成だということです。
人材育成において「早さ」を求めすぎるのは、実は「焦り」に近いのではないかと思います。
「やらせる」のではなく「仕向ける」、そして「気づかせる」ことが人材育成だとすれば、焦らずに「気づくまで待つ」ということも人材育成の一環として重要なのではないでしょうか。
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