小笠原 隆夫(経営コンサルタント)- コラム「「給与の見える化」や「360度評価」が難しかったこと」 - 専門家プロファイル

小笠原 隆夫
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オガサワラ タカオ
( 東京都 / 経営コンサルタント )
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「給与の見える化」や「360度評価」が難しかったこと

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社員にやる気を出させるヒントになるエピソード集 現場の事例・私の体験 2022-05-12 07:00

 少し前ですが「同僚の給与を“見える化”したら社内はどうなるか?」という記事を見ました。

 

 ある情報通信の企業では、給与額の枠とリンクしている「等級ランクの公開」をしているそうです。人事評価では6段階の等級とその中にランクがあり、この等級とランクごとに給与額の枠が定められており、自己目標の達成度に応じて給与が決定する仕組みとのことです。

 

 この等級ランクを決めるのが、他部署を含めた業務に関わる人たちによる匿名の「360度評価」で、会社の人事部は「等級に値する仕事をしているかどうかを見て、保身的な低い目標が減って次に自分は何をすべきかを考えて目標を立て、自分の立場に責任をもちながら仕事に取り組むようになった」と評価しています。

 「360度評価の公平な評価によって不満がなくなった」「給与額がオープンになったことで、仕事に責任を持つようになった」などの効果があったとのことです。

 

 人事施策というのは、常に明暗の両面が考えられ、特に悪影響を懸念して躊躇することも多いですが、こういった成功事例は参考になります。

 ただ、私が今まで見てきた「給与の見える化」や「360度評価」は、このような好ましい状況ではなく、どちらかといえば失敗と言ってもよいものばかりでした。

 

 まず「給与の見える化」ですが、厳密には給与額を明らかにしたということではなく、「等級ランクの公開」でした。ただ、給与額の範囲は公開されていたので、だいたいの推測ができるということでは、「給与の見える化」と言ってよいものです。

 

 ここで起こったことは、とにかく「上司不満」と「評価結果への不信感の増幅」ということでした。

 この会社では、どちらかといえば情報格差や権威を使ってマネジメントしようとする管理職が多い組織風土があり、上司と部下の距離感が近いとはいえなかったため、これを打破する制度改革として導入したのが「給与の見える化」でした。

 しかし、蓋を開けてみると、そもそもの不信や不満の度合いが思った以上に高く、なおかつ表に出ずに潜在化していたこともあって、「等級ランクの公開」がさらにそれらを増幅され、社員の不信感を爆発させてしまったということでした。

 これらをどうやって修正、収束させていくかが私への相談でしたが、一度公開したものをまた元に戻すのではさらに不満が膨らみます。評価制度の見直しやマネージャー教育などの施策をしながら、良い方向に転換するまでには数年の期間が必要でした。

 

 もう一つ、「360度評価」については、ある会社がどうしてもやりたいということで、テスト的に実施したことがありました。おとなしい性格の管理職が多く、本人たちの役割認識が薄いため、これを刺激したいという意図でした。

 そこで出てきた結果は、ある部分では人気投票、ある部分では一方的なダメ出し、またある部分ではすべて高めの無難な採点など、あまり有用とは言えない評価ばかりでした。

 評価項目や基準は一応準備されていましたが、他人を評価した経験が少ない一般社員に、ごく簡単なレクチャーだけで実施してしまったという問題がありました。

 

 私がかかわったのはこのトライアル後のタイミングでしたが、そのまま継続すれば慣れによって改善されることも考えられるものの、「360度評価」は上司と部下の間で板挟みになる管理職へのプレッシャーが大きすぎることもあり、正式導入は見送って、職制や部署をまたがって構成する「三者面談」の導入など、コミュニケーション強化の施策に転換することとしました。

 

 このように、同じような組み合わせで同じような施策を取ったとしても、その効果は正反対になることがあります。記事で紹介されていた成功例は、企業スペックを見るとわりと平均年齢が若いIT業界の会社ということだったので、もともとの企業風土や他のいくつかの要因にうまくはまったということでしょう。

 

 新しい取り組みをしなければ組織改革はできませんが、自社に合わない取り組みでは、せっかくの苦労も台無しになります。

 自社の状況をいかに見極めるかは、改革や改善を進めるうえで、とても重要なことです。

 

 

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