小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「上司に失礼!」「上司を敬え!」と怒られたときのこと
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私がまだ30歳前後のサラリーマン時代のことなので、もうずいぶん前の話です。
当時私が在籍していた会社は、まだそれほど人数が多くなかったこともあり、上下関係はわりとフラットで、お互いの役職などにあまり固執しない会社でした。
上司との会話では、相手は年長者で先輩でもありますから、もちろん最低限の敬語は使いますが、しょせんは最低限であり、いま思えばずいぶん失礼な言い方をしていたと、多少反省しています。
ただ、そこにはお互いが遠慮せずに物を言い合える関係という良さもあり、さらにお互いがその関係で納得していたので、特に問題があったとは思っていません。
私の今の仕事の中では、「長いものに巻かれない」「相手の肩書だけで委縮しない」「言いにくくても言うべきことは言う」などが大事であり、当時の環境に身を置いていたことは、そういう力を多少なりとも身につけられた一つの要因と思っています。
しかし、世の中にはそうでない価値観もあります。
その当時のことですが、社長、上司を含めて数人で飲みに行ったとき、あるお店でその常連らしき初老の男性から、「お前は上司に対する口のきき方がなっていない!」と急にお説教をされたことがあります。
面識がない相手からの一方的な言い方で、なおかつお酒が入っていたこともあり、私は「当事者が普通と思っているやり取りを、初対面の人間に口出しされる筋合いはない!」などと言い返し、その場はかなり険悪になってしまいました。
今となっては若気の至りの話ですが、変わらずに思っているのは、言葉遣いは相手との距離や関係性の中でお互いが納得していればいいことで、それは年令や役職の上下といった次元だけで決めるものではないということです。
例えば、新卒の採用面接でなれなれしい友達口調、上から目線の威圧的な口調で話す面接官がいます。私は絶対にしませんし、度が過ぎている人には必ず注意します。
学生だからといって自分より下ではないですし、面接は会社としての公式な場であり、それなりの敬語が必要なのは当然だからです。
ただ、入社が決まってその人と継続的に関わっていくとなれば、少し話は変わってきます。相手との距離は近くなりますから、言葉のやり取りはもう少しカジュアルなものに変わっていくでしょう。これはお互いの関係性の中で、徐々に作られていくものです。年長者や上司を立てるという最低限の礼儀はありますが、それがすべてではありません。
ある会社で、「自分に対する態度が悪い部下がいる」と怒っている部長がいました。
その人が言うには「部下が上司を立てるのは当然」だそうですが、私が感じたのは、部下からの信頼が得られていないことを気にしていて、その反動で「みんな部長の俺を敬え!」と言いたかったのだろうということでした。
またある会社では、部下たちが上司に対してチヤホヤしながら、細かな世話まで対応することが何となく習慣づいていて、しかもそのチヤホヤの度合いが、役員、部長、課長と役職に応じて見事に階層化されていました。会社の雰囲気から自然に身に付いたものと思われ、当事者である上司も部下も、第三者の私からそう見えていることにはほぼ気づいていない様子でした。
これらの会社は、私が見る限りでは組織が硬直化している傾向があり、業績的にも今一つでした。「上司は偉くて尊敬されるもの」という固定概念が、この硬直化の一つの理由です。
望ましいのは「上司だから尊敬される」のではなく、「尊敬される人材が上司になっていく」ことですが、そんな人格者はめったにいません。そうだとすれば「上司を敬え!」が必要な場面もあるのかもしれません。
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