小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「不言実行」「あうんの呼吸」ばかりでは困ること
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「不言実行」という言葉がありますが、その意味を調べると、「文句や理屈を言わずに、黙ってなすべきことを実行すること」とあります。
もう一つ、「あうんの呼吸」という言葉があり、こちらは「二人以上で一緒に物事を行うときの互いの微妙な気持ち。またそれが一致すること」とあります。
どちらも日本人的な美徳と合致して、悪い意味で使われることはほとんどないように思いますが、共通しているのは、よけいな言葉を発せず、明確で具体的なコミュニケーションは、あまり行われていないことです。
古いとも思える価値観ですが、この感覚を持ち続けていて、それが風土の中に組み込まれているような会社は、今でも数多く見かけます。
しかし、この「不言実行」「あうんの呼吸」が多い会社や組織では、実際の組織運営上で困ったことがたくさん起こります。
例えば「不言実行」で、文句を言わずに淡々と仕事をするのは良いとして、実際に何をどこまでやろうとしているのか、どんな優先順位なのか、そもそもやる気があるのかないのか、本人に聞くか話してもらうかをしない限り、周りの人が様子を知ることはできません。
「目標」「ゴール」は心に秘めたまま、周りに明示せずに実行するわけですが、悪い意味でとらえれば、結果に対する言い訳は何とでも言えることになります。
もし「不言実行」の部下がいたとしたら、上司の立場では、よほど実績があって信頼できる部下でない限り、非常に扱いづらいでしょう。
同じことが「あうんの呼吸」にも言えます。「言われる前に動け」「空気を読め」などと言う人がいますが、そういう人に限ってそのための前提条件を伝えていません。空気を読んで、言われる前に動いても、結果がその人の思い通りでなければ、不満や怒りが自分に返ってきます。
特に経営者や管理者が、部下に対して一方的な“あうんの呼吸”を求めている場面は、案外多いと感じます。
これは、例えばチームスポーツであれば、メンバーの「コンビネーション」にあたります。ただ、この「コンビネーション」が、お互い無言のうちに何となくでき上がっていくものかといえば、決してそうではありません。
もちろん時間の経過とともに、不文律として醸成されるものもありますが、結果重視の勝負の世界では、それでは時間がかかり過ぎます。「コンビネーション」を作るために、お互いがかなりの量の言葉を交わし、コミュニケーションを取り合います。
「自分のプレースタイルはこうだ」「こういう場面ではこういうふうにプレーしたい」「ここにパスが欲しい」「こういうサポートが欲しい」など、お互いが意識のすり合わせをしながら、コンビネーションを作り上げていきます。その関係性が積み重なってきて初めて、いちいち言葉を交わさなくても通じ合うようになっていきます。
特に日本の企業は、「高コンテクスト(コミュニケーションが感覚や背景に依存する)な文化」と言われます。最近はグローバルな感覚があって、文化の違いを認識した上で言葉によるコミュニケーションが習慣化した企業がある一方、高コンテクストな文化を背景にして、「不言実行」「あうんの呼吸」がそのまま生き続けている企業があります。そしてそういう企業には、組織上の問題が数多く起こっています。そのほとんどはコミュニケーションの行き違いによるものです。
一見美徳に思える「不言実行」や「あうんの呼吸」は、組織運営の中では困ることが多いはずです。
「言語化したコミュニケーションを意図的に行うこと」は、現在の企業の組織運営では必須要件です。
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