小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ現場作業を見下すマネージャーが中小企業に転職してからのこと
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数年前のことですが、何度かお会いしたことがある、まずまず大きな会社のマネージャーだった人から転職したという案内をもらいました。転職先はそれほど大きな会社ではありませんでしたが、執行役員の肩書がついていましたので、それなりに望まれての転職なのでしょう。
私は何度かビジネス上のつながりがあっただけなので、くわしい人物像まではわかりませんが、どちらかと言えばイケイケな感じがする、悪く言うとそれが尊大な態度に見えてしまうタイプの人でした。私の印象では仕事のしかたが大ざっぱに見え、実際にも期限を守らない、依頼事項を忘れる、ケアレスミスなど、少々雑なところがありました。
その人の発言で私が特に気になっていたのは、現場作業や事務仕事を「誰でもできる仕事」などといって軽視していることでした。
「上位の職制の者ほど、自分しかできないことに時間を割かなければならない」と言われ、そこからすればわからなくはない話ですが、本来は自分でやらなければならないような仕事でも、現場作業や事務仕事のたぐいは何でもかんでも部下に押し付けるようなところがありました。
きっとそういう仕事があまり得意でなかったのでしょうが、軽視して見下すような態度は好ましいとは言えません。押しの強さが上席者からは頼もしく見えるのでしょうが、部下たちからの評判はあまり良くないようでした。
転職案内をもらってから何か月かが経ったある日、そのマネージャーが転職前に在籍していた会社に、たまたま訪問する機会がありました。担当者と話しているうちに何となくそのマネージャーの話になり、その担当者が聞いた噂では、転職先の会社を早々に辞めることになってしまったらしいとのことです。それも退職勧奨のような形で半ば追い出されてしまったようです。
どうも「自分のことを自分でやらない」という評価だったようで、それが無責任、人任せ、何もしないという見られ方になり、結局辞めざるを得なくなってしまったようです。私はこの話を聞いて、「ああやっぱり・・・」と納得してしまいました。
大企業の出身者が中小企業に転職してまず思うことで多いのは、「こんなことまで自分でやらなければならないのか・・・」だと聞きます。
分業が進んだ大企業では、「本人の知らないうちに誰かがやってくれていること」が思いのほかたくさんあり、社員を手厚くフォローする体制が整っていますが、中小企業ではそうはいきません。会社によって差はありますが、自分の身の回りのことは自分でやるのが基本です。
それまでの手厚い環境に慣れ親しんできた人が中小企業に転職すれば、見下していた現場作業や事務仕事を「やらなくて当然」から「やって当然」の環境に変わる訳で、そのカルチャーショックは相当だと思われます。逆に自分が見下される感覚になっていたかもしれません。
最近の求人要件では、年令を問わずに「自分で手を動かせる人」「実務がこなせる人」という項目が挙げられることが多くなりました。ただ「管理ができます」ではダメで、営業であれば実際の営業活動、経理であれば台帳入力などの経理事務など、現場のプレイングをこなした上でのプラスアルファが求められるようになっています。
現場作業を軽視する姿勢では通用しない職場がどんどん増えています。「たかが事務作業」「誰でもできる仕事」などと避けていることで、実は自分自身が一番困ります。
目の前の細かな実務を誠実にきちんとこなすことは、自分のために必要なことです。
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