小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「他社事例」を活用するために必要なこと
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私たちコンサルタントの立場では、課題に関する他社での成功・失敗事例の情報を、クライアントから求められることが良くあります。
他社事例というのは、その会社でうまくいったからと言って、それを別会社に持ち込んでも、必ずしも成功率が高いとは言えませんし、逆に失敗事例がそのまま当てはまるとも限りません。
ですから、私たちはその会社の様々な事情を総合的に見極めて、その会社で活用できそうな事例を、複合的に組み合わせて選択肢を示します。そうでなければ成功しないことがわかっているからです。
しかしクライアントの中には、「もっと直接的な事例を!」と要望する会社があります。すぐに効果を上げたいということです。
また、コンサルタントの中には、根拠が薄くても「この事例が有効である」などと言い切ってしまう人もいます。経験が少ない人に、この傾向が出やすいです。
他社の有効な事例を持ち込んでくれることを期待して、大手企業や自社より大きい他社の管理職経験者などを採用することがあります。これも、その後の様子を見ていると、うまくいく場合とそうでない場合の両方があります。
この成否に影響する大きな要素は、採用された本人が、その会社の現状を受け入れて肯定的に見ているか、それとも元の会社との比較で否定的に見ているかということです。
うまくいくのは、ほとんどが前者の「現状肯定派」です。現状が好ましくない状態だったとしても、そこには過去から積み上がった何らかの経緯や事情があります。これを受け入れた上で、本人の経験や知識を加えていくことができると、状況は非常にうまく回り始めます。
しかし、こういう対応が取れる人は少数で、後者の「現状否定派」が圧倒的に多いのが実際のところです。
「こういう仕組みがないのはおかしい」「こういうマニュアルや資料がなぜ無いのか」など、前職と比較してのダメだしが多く、「○○社では・・・」と言いながら元の会社の話をします。
「アメリカでは」「フランスでは」と欧米を例に挙げて、日本は遅れているとけなす日本人を「ではのかみ」というそうですが、何かにつけて他社事例を引き合いに出して自社をけなすのも、これと同じような話です。また、本人は無意識のまま、こういう発言をしていることが多いようです。
こういう人材が組織に入ってくると、会社の状況は二通りに分かれます。
その人の行動や言動が周りから総スカンとなって、結局は本人が辞めてしまうか、そんなことはお構いなしで居続けて、現場のモチベーションを下げているかのどちらかです。
前者では、その後の組織改革でも保守的な傾向が強まり、後者は本人と周りとの軋轢が深まって、それが会社への不満につながります。どちらも良い状況ではありません。
自社の課題解決に向けて、他社事例を参考にすることは、それなりに有効なことです。
ただ、そのためには綿密な現状把握が必須であり、それを理解した上で対策立てて実行できる人材でなければ、他社事例を活用することは難しくなります。
問題の解決策というのは、そう簡単に見つかるものではありません。
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