小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「人事制度の形骸化」に対してやるべきことを考える
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私がご相談を頂くテーマに、人事制度の関するものは多いですが、その中でも「制度の形骸化」という話が良く出てきます。
形骸化というのは、当初の意義や目的が忘れられて、手続きなどの形だけが継続されているような状態です。会社にはいろいろな制度や仕組みがありますが、人事制度はその中でも形骸化しやすいものの一つです。
その理由はいくつもありますが、最も大きなものは、手間がかかる割には自分に直接どんな影響があるのかを実感しづらいということがあります。社員の処遇を決める重要な仕組みであるにもかかわらず、特に評価を担当する上司の側には、そういう意識の薄いケースが見受けられます。
マネージャークラスの人たちにとって、時間や手間が取られる割に、自分の仕事への直接的な影響は感じられないとなれば、それはただの「めんどくさいこと」になります。
立場としてその「めんどくさいこと」をやらなければならないとなれば、事務的にイヤイヤこなすだけになり、まさに形骸化していきます。
こんな形骸化をさせないための方法はただ一つで、制度を運用することによって、自分へのメリットが感じられるかどうかです。しかし、それはなかなか簡単には行かないことで、そのためには小さなことも含めて、「めんどくさい」と感じさせない様々な工夫が必要になります。
初めは、記入書式や処理手順といった事務処理プロセスの工夫があり、さらに、評価人数などの作業工数を軽減する工夫や、面談などのコミュニケーションの場を実務に活かしてもらえるようにする工夫などがあります。
特に、制度を導入したばかりの頃に出てくる些細な不満は、それを放置すると、社内に「今の人事制度はめんどくさい」という認識が噂のように広まり、後から立て直すことが難しくなります。できることには迅速に対応することが望ましいです。
そうは言っても、この手の不満が出始めると、それを増幅するような動きというのは、なかなか止められません。
そんな中で、これはある会社で実際にやったことですが、人事制度や評価の手続きに関して、中には理不尽とも思える批判までがされていたところで、あえて「それでは言う通りに全部やめましょう」と、すべての人事制度を一時廃止したことがあります。多くの会社に適用できる方法ではありませんが、この会社での不満の発信のされ方、マネージャーたちの態度などを総合判断した上でのことです。
ここまでやってしまうと、それまで声高に批判していたマネージャーたちは、人事制度を通じて行っていた部下とのオフィシャルなコミュニケーションや、仕事上の評価を含めた様々な話を伝える機会を失います。
制度で決められたものが無くなってしまうと、それを補完する手段は自分で考えなければなりませんが、実際にそれをやろうとすると、時間調整その他で意外と手間がかかることに気づきます。もしも手間を惜しんでサボってしまうと、今度は部下たちから突き上げられたりします。
このように、人事制度が本当になくなってしまうと、自分たちにも困ることがあるということを、はっきり思い知ると、そこで初めて、何が必要でどんな仕組みにすればよいのかという建設的な議論が成り立つようになります。
人事制度を形骸化させないためには、それを運用する社員たちに、それなりのメリットを感じてもらう必要があります。
人事担当者はしっかりと現場の意見を聞き、できるだけの対応をしていくことが原則ですが、それではどうしてもうまく行かない時には、こんな荒療治が必要になることもあるかもしれません。
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