少し前、あるIT関連の会社に属しているコーチングの専門家の方とお話しした時のことです。
某大手食品飲料メーカーで、全社的にコーチングの手法を取り入れ、社長から率先して研修を受けるなどトップから率先して取り組んでいる企業があるそうです。今の環境下でも堅調な業績の超有名企業ですが、その方曰く、「このような会社の取り組みが確実に業績向上に貢献している」とのことでした。
しかし同時に「自分の会社で同じ事をやっても、これほど浸透して良い結果にはならないと思う」ともおっしゃっていました。その方がいろいろな話を聞く中で、一番感じた違いというのは「会社への帰属意識」だそうで、その某大手企業では、自分の会社や作っている製品など、自社が大好きな人がとても多く、帰属意識が高いと感じたそうです。
一方でIT系の会社というのは一般的に客先での作業が多かったり、少人数のプロジェクト制だったりと、会社とのつながりが希薄になりがちな業務形態が多いので、会社への帰属意識は下がりこそすれども、高まる要素は少ないという環境です。こんな中で、仮に同じようにコーチングの手法を入れようとしてもなかなか定着しなかったり、同じような成果を得ることは難しいと思う、とその方はおっしゃっていました。
私も「他社の成功事例を持ち込んだからといって、必ずうまくいくとは限らない」に関しては全く同感で、その要素として「帰属意識」の問題があるというのは、それなりに納得がいく部分です。帰属意識が低い状況では、会社主体の取り組みに積極的にかかわろうとするはずも無いでしょう。
「帰属意識」というのは、言い換えれば「愛社精神」とも言え、本当に人の心の中での感じ方の問題なので、何に魅かれるかは人それぞれ、周りからコントロールするのは難しい部分です。関係する要素として、事業内容、職場環境、人間関係、給与などの処遇、自社のブランドイメージ、社会的ステータス、その他考えられることはそれこそ際限なくありますが、これらすべてに関して原理原則に則って、少しずつでも向上させていくしか「帰属意識」を高める方法はありません。
ただ一つ、私が問題と感じるのは「帰属意識の落差」です。みんな初めは「この会社なら・・・」と思って入社するはずなのに、それが入社後に大きく落ちてしまうというケースです。この場合、多くは採用活動の進め方に問題があるはずです。入社前の情報提供が不足していたり不適切だったり、自分たちの会社の価値観に共感してくれるか、入社後のイメージ違いを許容する幅がどうかなど、自社との相性の判断が甘かったり、「この仕事に就けられる」など目先の皮算用で判断して本来の資質を見誤っていたり、いろいろなケースがあると思いますが、やはり「入り口」はとても重要だと思います。
もしかすると採用活動を見直すことで、会社への帰属意識が高まり、研修効果も得られるようになる、などということもあるかもしれません。人事管理、労務管理は全部のつながりですから・・・。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
組織が持っているムードは、社風、一体感など感覚的に表現されますが、その全ては人の気持ちに関わる事で、業績を左右する経営課題といえます。この視点から貴社の制度、採用、育成など人事の課題解決を専門的に支援し、強い組織作りと業績向上に貢献します。
「社員にやる気を出させるヒントになるエピソード集」のコラム
誰でも陥る「人物評価の思い込み」(2024/04/03 23:04)
「目指したい上司」がいる幸運といないことの当たり前(2024/03/06 14:03)
注意が必要と思う「生産性が低い」という指摘(2024/02/21 18:02)
「失敗」「挫折」の体験は成長に必須か?(2023/10/26 09:10)
問題は「閉鎖的な組織環境」でエスカレートする(2023/10/11 22:10)
このコラムに類似したコラム
ファシリテーション講座にて 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2010/10/12 11:57)
「自力でできること」と「どうしようもないこと」の区別 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2023/08/17 08:32)
「理想の仕事」という調査結果を見て思ったこと 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2022/11/30 22:00)
仲が良いから言いやすい? それとも言いにくい? 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2021/12/02 07:00)
意識していなければ見間違う他人同士の人間関係 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2017/07/04 08:00)