先日ある研修会で、有名な外資通信社の日本編集局長の方のお話を伺う機会がありました。(その立場に就かれるのは日本人として初めて、なおかつ女性初という方でした。)
いろいろなお話の中で、報道内容の主観的な部分をどのように排除していくのかという話になり、その方は「様々な国籍で様々な文化的背景を持ち、様々な学歴や家庭環境から出てきた多様な人達が集まっている社内環境の中で、幅広い視点と価値観から議論し、それが一定のチェック機能になっている」というお話をされていました。確かに国内のメディアであれば、ほとんどが日本人でしょうし、相応の学歴がなければ入れない世界だと思うので、懐の広さは違うだろうなと思いました。
一般の企業でも、適切でない判断や不祥事というのは、おおむね内輪の閉じた論理や偏った価値観に端を発していることが多いですから、幅広い価値観の人間を組織に取り込むことで、企業としてのバランス感覚はより好ましい形になるといえるのでしょう。今までの価値観にとらわれない人材を、いかに取り込んでいくかということが重要になってくるのだと思います。
ただ、こんなきれい事の話で終われれば良いのですが、現実はそれほど単純ではありません。
たぶん組織に属する多くの方は、多かれ少なかれ組織に取り込める人材の幅は広げたいと思っているでしょう。自分達の組織に活かせる人間が、世の中に沢山いるに越したことはありません。しかし、いくら「幅広い人材を!」とは言っても、やはり自社の仕事上の向き不向きはありますから、おのずと取り込める人材は限定されます。大企業ならばまだローテーションによる異動先も考えられるでしょうが、中小企業ではそう簡単には行きません。
また、個人レベルで付き合いを広げることを考えたとして、例えば経営者の方であれば知り合いの紹介でいろいろな人と会ったり、異業種交流会に出たりということをされますが、自分と全く異なる価値観の人と知り合って付き合えるかというと、必ずしもそうではないでしょう。
私もできるだけいろいろな集まりに参加するようにしていますが、どんな人と接するかは所詮自分で選択している訳で、意図的であっても無意識であっても、どこかで自分の価値観に照らし合わせて判断しているはずです。結局自分が付き合いたい人とだけ付き合っている訳ですから、付き合いが広がっているのは確かですが、それで自分の器が広がったとか幅が広がったなどと思うのは、単なる自己満足のような気がします。自分達だけの努力では、結局自分達の許容範囲内の人(要は自分達の価値観で許せる人)とでなければ関係作りは難しいのが現実であり、自分達と全く異なる価値観の人を自分の人脈、組織の中に取り込むのは、とても難易度が高いということです。
何が言いたいかというと、多様性によってバランスを取るという事を聞きかじり、「人材の幅を広げよう」などと言って、唐突に今までと毛色の違う人材を採用するなどしても、簡単に効果が上がる訳もなく、多様性を受け入れられるまでには、その基盤作りや意識改革などに相応の時間が必要だということです。思いつきでできるような事柄ではありません。
ただ一方で、その努力は絶対継続すべきという事は忘れてはならないと思います。どんな状態が“多様な価値観を取り込んでいる状態”と言えるのかは、なかなか明確には言えないと思いますが、自分達の価値観を広げる努力はとても大切なことだと思います。
「多様性は重要だけど、一朝一夕にしてならず」という所でしょうか・・・。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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