(続き)・・さて我々がストレス源に晒された場合、その影響はどのように脳へ伝わってくるのでしょうか。ストレスの信号はまず上述の大脳皮質が感受します。その信号は次に脳幹の上の方にある「視床下部」に伝わります。ここは自律神経やホルモンの中枢とされており、その機能不全は自律神経やホルモンのバランスや恒常性に変調を来たします。強いストレスが視床下部の機能に障害を与えることによって自律神経失調症やホルモン異常を招くのは、主としてそのような理由からです。
視床下部に達したストレスの刺激は、二つの経路に分かれて体や心に影響を及ぼします。一つ目は視床下部の下にぶら下がっている「下垂体」への影響です。ここは視床下部からの指令を受けてホルモンを産生する組織で、全身各臓器に大きな影響を与えます。その一つにACTH(副腎皮質刺激ホルモン)があり、これが副腎に作用して副腎皮質ホルモンの産生を促します。このホルモンは適量ならば人間に活力をもたらしますが、過剰に作用すると様々な弊害を招くのです。
強いストレスによって副腎皮質ホルモンが過剰に産生されると、血糖値が異常に高くなり、糖尿病のリスクが上がります。糖尿病患者が食事を減らしているにも関わらず、ストレスによって血糖値が上がることがあるのは、そうした理由からです。また胃粘膜が荒れて胃潰瘍ができやすくなります。ストレス性の胃炎や胃潰瘍は有名ですが、大なり小なりホルモン異常が関与しています。一方では免疫力が低下して、風邪はもとより感染症やガンなど、様々な病気にかかりやすくなってしまいます。
もう一方の経路は、視床下部より下方の脳幹内にある「縫線核」への影響です。ここは神経伝達物質の一つである「セロトニン」を産生している部位で、強いストレスがここに及ぶとセロトニンの産生が妨げられます。セロトニンの主な作用として、精神的な安定や適度な活力をもたらす、ということが挙げられます。セロトニンが充分に働いていると心が安定し、程よいやる気を感じますが、不足すると心が不安定になり、やる気が低下してしまいます。実際に、うつ病患者はセロトニンが欠乏しています。
神経伝達物質にはこの他に、学習や快楽に関係するドーパミンや、仕事や闘争に関係するノルアドレナリンなどがありますが、これらは適度に機能していれば活力や能力の向上に役立つものの、過度に働くと別のストレス源や依存性をもたらしかねません。例えばドーパミンの働きによって一種の快楽が得られますが、もし快楽が得られなくなった場合にはかえってストレス源となってしまいます。またノルアドレナリンの働き過ぎは直接にストレス源となり、体と心を蝕みます。
これに対してセロトニンの働き過ぎによる弊害は報告されていません。ドーパミンやノルアドレナリンがストレスなどの刺激によって産生や放出が促されるのに対して、セロトニンはほぼ一定のリズムで産生、放出されるという特徴があります。睡眠時には抑制され、覚醒時には促進されるという日内変動はありますが、セロトニンは概ね安定して産生され、神経系全体を安定させるという役割を果たしています。ストレス対策のポイントの一つはセロトニン、といっても過言ではありません・・(続く)
このコラムの執筆専門家

- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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