(続き)・・日の光を浴びて歩くのが良い理由はそれだけでありません。歩くことで目に見える風景が刻々と変化し、良い刺激が視覚として脳にインプットされます。現代人にストレスが多くなっている理由の一つは、パソコンなどの画面を見つめる作業が増えており、視覚が固定されたままになりがちだ、ということがあります。人間は近くのものを凝視し続けると交感神経が優位となり、ストレスがたまる傾向があります。遠くに目をやることで副交感神経に刺激が加わり、ストレスの緩和に役立ちます。
同じ外を歩くのでも、植物や水、山など自然のある場所を歩く方がストレス緩和により有効です。コンクリートなど人工の造物だけを見ていても気が休まりませんが、木々の緑や川などの水、山や海などの風景を見ていると気が和むものです。森林の中では植物から「フィトンチッド」という有効成分が分泌されており、これが体内に吸収されると、副交感神経に良い刺激が加わるほか、免疫力が向上するなどを通して心身に良い影響が期待されます。
歩くことも含めて「リズミカルに動く」ことは、セロトニン神経の機能を高めるとされています。覚醒時にセロトニン神経は、1秒間に2~3回の頻度という一定のリズムでインパルスを出し続けていますが、それに合わせる形でリズムよく動くことが、セロトニン神経の活性化につながります。例えば外を歩くことは立派なリズム運動です。また最近のマラソンブームは、運動としての脂肪燃焼の効果もさることながら、リズムよく走ることで精神的な安定や充実も得られるという側面をもっています。
リズミカルな運動は他にもサイクリング、水泳、エアロビクス、スクワット、ヨガなど数多くあります。これらに共通しているのは、特別な道具が要らず一人でも気軽に取り組める点です。特に早く走るとか、長時間にわたり運動する必要はありません。軽く息が弾み適度に汗をかくくらいのペースで、30分程度行なうだけでも充分に効果があります。日ごろよく歩き、よく体をよく動かす人が概して健康で、しかも気持ちが前向きなのは、このリズミカルな運動によるセロトニン神経の活性化も関係しています。
一見して運動と見えないような動作でも、リズムを刻むような動作は広い意味で「リズム運動」に含まれます。例えば「呼吸」は呼気と吸気を規則的に繰り返す動作で、だれもが無意識に行なっていますが、これも工夫することでセロトニン神経を活性化させることが可能です。呼吸動作のうち呼気の間は副交感神経が優位になるため、吸気よりも呼気をよりゆっくりと行なうことによって、セロトニンの分泌を促進します。特に腹式呼吸を意識して行なうことが有効です。
お寺でお坊さんが読む「読経」や「木魚」を叩く音、信者が唱える「念仏」などは、いずれも或る種のリズムを刻んでおり、不思議と心が和むものです。どうしても親しい人が亡くなると心が乱れがちですが、そのようなリズムに身をゆだねることによって心の平安がもたらされるのでしょう。また各地の「祭り」には規則的な動きや音がつきものです。祭りに参加する人々は、リズミカルな踊りや動作、音楽、唱和などの時間を共有することによって、コミュニティや神との一体感を味わうのでしょう・・(続く)
このコラムの執筆専門家

- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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