(続き)・・上記のような非正規労働者の増加や年下上司、年上部下の増加といった状況にみられるように、近年の企業現場では業務上の上下関係がかつてないほどに多様化しています。またそれに加えて、今後は外国人労働者の急増が確実視されており、職場の人間関係は従来のようなモノトーンではなくなりつつあります。また年上上司に年下部下という従来型のラインの場合であっても、最近の企業現場に於いて、一方的な指示、命令では、部下は言うことを聞かなくなってきています。
部下にしてみれば、上司から一方的に業務を指示されたとしても、かえって反感を感じてパフォーマンスが上がらないばかりか、ひどい場合にはメンタル不調を招いたり、「パワハラを受けた」などといって上司や会社を訴えたりする行動を起こします。特に若い社員は、何事にも納得しなければ動かないという傾向が強まっています。このように最近の職場に於いては、上司が一方的に指示、命令することが有効でないだけでなく、様々なトラブルの原因にさえなっているのです。
また成果主義の普及などの影響もあり、数字に表れる部下の業績面にばかり注目し、結果を出せない部下にツラく当たる上司が後を絶ちません。その一方で、部下の努力や工夫、仕事のプロセスなどは重視せず、ましてや部下本人のプライベート上の変化などにはひどく無関心な上司が目立ちます。この傾向は成果主義や職能給といった制度上の影響もありますが、上司が部下との間でごく表面的な関わりしかしていない証拠といえ、社員の職場に於ける居心地を悪化させています。
反対に部下との関係悪化を恐れるあまり、部下の顔色を窺ったり、部下の言い訳や甘えといったネガティブな態度に迎合ばかりしている弱気な上司も少なくありません。最近は前述のように、若い社員が会社や上司を訴えるケースが多発し、上層部からも気を付けるように言い渡されています。そのような板ばさみに遭っている管理職は、部下が口走った言い訳や甘えに対してビシッと言い返すことができず、うまみを覚えた部下はますます図に乗ってしまうのです。
上記のような上司、部下関係の変質は、どのような事情によりもたらされたのでしょうか。一つには「価値観の多様化」が挙げられます。高度成長の時代には、社員は会社の拡大、発展に向けて共通の目標がありましたが、近年のような成熟社会になると、同じ会社の社員といえども共通の価値観や行動様式を持たなくなりました。世代が異なると、そのような価値観の相違はさらに大きくなります。そういう不均質な人間集団に於いては、そもそも一方的に指示を出すこと自体に無理があるのです。
そのように複雑かつ多様になった上司、部下関係を充実した良質なものにするには、いったいどのような取り組みが必要なのでしょうか。そのためには、実際の職場で往々にしてどのような悪しきコミュニケーションがなされており、それのどこがなぜ問題なのか、そしてそれをどのように改善する必要があるのかを、いくつかのシチュエーションごとに検討することが有効です。コミュニケーションは双方向の情報交換ですが、それを改善させるのは、主としてリーダーである上司の側の責務といえます・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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