5・事態を複雑にしている「新型うつ病」の出現
(1)時代とともに変化する、うつ病のタイプ
最近、企業の人事・労務関係の方々などからよく聞く話の一つとして、うつ病のタイプが昔とはかなり変化してきた、ということが挙げられます。
すなわち、うつ病を発症する社員の年齢層や性格傾向、発症に至る経緯、仕事への取組み姿勢、上司や同僚に対する態度などが従来とは大きく異なってきており、対応に本当に手を焼いている、というのです。
どういうことかというと、従来は真面目な40~50代の中高年社員が無理を重ねた結果、うつ病を発症してしまう傾向があったのに対して、最近は20~30代のさほど真面目でない若手の社員が、いつの間にか休みがちになって病院からの診断書を持参し、いきなり休職に入るというケースが目立つのです。
それだけでなく、従来のうつ病では当の社員が病気になったことに対して自責の念をもち、他者への配慮を欠かさないのとは対照的に、最近のうつ病では当人に自分の非を認める意識はなく、むしろ上司や同僚への非難を隠さない、という傾向があります。
また職場では抑うつ気分や頭痛など身体症状を盛んに訴え、仕事がなかなか捗らないのに、休みの日にはパチンコや映画、スポーツなど私生活をエンジョイする、という二重人格的にも見える行動を平気で取ったりします。
(2)「働けない」のか、それとも「働かない」のか?
このように同じ「うつ病」でありながら、従来とは性質の異なる新しいタイプのうつ病に関しては、周囲の人間から「怠けている」とか「働かない」などと見られてしまいがちです。つまり職場に於いてやる気がしない、気分が落ち込む、頭痛がするなどというのは、本人の「身勝手」と判断されてしまいます。
ところが本人にしてみれば、働こうにも「働けない」深刻な事情があり、それが周囲に理解されにくいという悲劇があります。そしてそれは多くの職場で、毎日のように繰り広げられています。そのような食い違いに基づく悲劇は、どのような理由によって発生しているのでしょうか。
従来型のうつ病は「メランコリー親和型うつ病」と呼ばれ、責任感が強く几帳面な社員が頑張り過ぎて、まるで燃え尽きるように発症します。
これに対して、新しいタイプのうつ病は「ディスチミア親和型うつ病」と呼ばれ、もともと性格的に未熟、あるいは適応性に問題があって、それが背景となって職場に適応できず、ストレスが加わると発症するという特徴があります。
典型的な「新型うつ病」に於いては、性格的に未熟で職場への適応力の低い若手社員が、学生時代までは通用していた自分なりのやり方が職場では通用しないことに挫折感を味わい、その原因を自分の至らなさではなく、職場や上司、同僚のせいにしてしまうことに悲劇の始まりがあります。
周囲に責任を転嫁してしまった若手社員が、その事情を職場から理解され共感を得るのは難しく、次第に職場内での評価が低下し居心地が悪くなっていきます。その結果、ますます職場環境やスタッフへの不信感や不適応を強め、本格的なうつ状態に陥っていくのです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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