2・メンタル不全が出現した際の取組み
(1)まずは社員の話に耳を傾ける
メンタル不全の社員が発生した場合にまず重要なことは、上司が社員の話に耳を傾ける姿勢を示すことですが、特に日頃、上司とあまり話もできないような部下の場合、上司が積極的に話を聴く姿勢を見せるだけで、部下は安心し心を開くものです。軽度の悩みであれば、この段階で解消することも少なくありません。
この時に気をつけるべきは、上司が心の余裕をもち、部下に固定観念を持たないことです。心を真っ白にして、部下の言うことを受け止めることが肝要です。そのようにして部下との信頼関係を構築し、続いてストレスや悩みの原因について部下本人と考えていきます。
それと並んで早い時期に産業医や産業カウンセラーなどの専門家による面談をセッティングすることが大切です。面談の際の一つのポイントは、ストレスや悩みについて真摯に傾聴し、その要因が具体的にどこにあるのか一緒になって考えてあげる、ということです。
(2)メンタル不全が疑わしい場合のチェックポイント
メンタル不全が疑わしい際に、第一にチェックすべきは社員の時間外労働をはじめとする勤務実態です。過重な残業や休日出勤などの長時間労働は、心身の極度の疲弊から、うつ病などの心の病の発症を招くほか、糖尿病や高血圧など身体疾患の発症要因ともなります。
特に1ヵ月あたり80時間を超える長時間労働がある場合には、時間外労働の制限などの処置が必要となります。その際、時間外労働が長時間化している要因について、本人および職場の管理者から事情を聴き、物理的に労働時間を軽減させることが困難と判断した場合には、業務の一部を他の社員に移管するなどの手配をして、半強制的にでも早く帰宅させるような処置が必要です。
次に注目すべきは、勤務条件や環境の急激な変化がなかったかどうかです。職場の異動はもとより、上司が代わったり職務内容が変化したりすると、新しい状況に適応できずにストレスを抱え込む可能性があります。同時に、職場内の特定の人間関係が悪化したとか、取引先や顧客など外部の人間との関係が悪化したといった事情がないかどうかもチェックします。
一方では、社員に対して「裁量度」が与えられているかどうかも重要です。裁量度とは、自分の受け持つ仕事に関して自分なりのやり方やペースで遂行することを認められる程度を意味します。この裁量度が高い職場では、仮に労働時間が長くてハードな仕事であっても、社員の満足度が高くてストレスが少ない傾向があります。逆に裁量度が低い職場では、社員に「やらされ感」が募ってストレスが高まりやすい、とされています。
また仕事に対する「達成感」が得られているかどうかも大切なポイントです。達成感とは、仕事をやり遂げた時に感じる満足感で、これをよく感じられる職場は「やりがいのある職場」と感じられ、たとえ長時間労働であっても社員の満足度が高くなる傾向があります。逆に達成感の少ない職場ではやりがいを感じにくく、社員には不満やストレスが蓄積しやすくなります。
(3)一定以上の症状が認められる場合
明らかにメンタル不全に陥っていると判明した場合には、充分な「休養と睡眠」を取らせることが大切です。メンタル不調は、一種の「脳の疲労」と表現することも可能です。その疲労を解消することが第一歩ですが、それには酒を飲んだり旅行に行ったりすることよりも、とにかく休むことが大事です。例えば土日の週末に有給休暇を1日か2日ほど合わせるだけでも、まとまった休みを得ることが可能です。
ただし、一定以上の症状が認められる場合には早めに医療機関を受診させることが必要です。うつ病などの精神疾患が疑わしい時には精神科に行くよう勧める場合がありますが、精神科というと二の足を踏む人が少なくありません。
むしろ身体的な症状、例えば疲労感や頭痛、食欲不振などといった症状があればそれに着目し、まずは内科を受診させるほうが、比較的すんなりと医療機関の門を叩くことが可能となります。内科を受診した際に、担当医が精神症状に注目して精神科や心療内科を紹介する、といった流れになることが期待できます・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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病気を治したり予防するにあたり、いちばん大切なのは、ご本人の自然治癒力です。メンタルヘルスを軸に、食生活の改善、体温の維持・細胞活性化などのアプローチを複合的に組み合わせて自然治癒力を向上させ、心と身体の両方の健康状態を回復へと導きます。
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