民主党税制調査会(2・税目ごとの改革指針 その1) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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民主党税制調査会(2・税目ごとの改革指針 その1)

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税制改正 平成21年度税制改正
昨日に引き続き、

民主党税制抜本改革アクションプログラム

から、3.各税目における改革指針 について紹介する。

この内容について、

民主党政権の最初の任期中に順次具体的な制度設計を行う旨

明言している。

(1) 所得税

産業構造の変化、雇用の不安定化、これらに対する政府の無策から
格差の拡大が進行している。
加えて、国際金融危機などに端を発する急速な実体経済の悪化の中で、
社会的弱者が一層厳しい状況に追い込まれ、格差は今後さらに
拡大する可能性が大きい。
特に、下への格差拡大を食い止めることが喫緊の課題である。


とした上で、これまでの所得税制の方向性である格差是正のための
最高税率の引き上げにより、高額納税者の日本からの離脱や
海外資産投資を考えれば、所得再分配機能の回復策としての実効性は
乏しいとして、


これに対する答の一つが、民主党がかねてから提唱してきた
「所得控除から手当・税額控除へ」である。
手当は相対的に高所得者に有利な所得控除に代えて現金給付を
行うものであり、定額の給付であることから相対的に支援の必要な
人に実質的に有利な支援を行うことができる。

さらに、所得再分配機能を高めていくためには所得控除を税額控除に
替えるだけでなく、「給付付き税額控除」の導入を進める。
これは税額控除を基本として、控除額が所得税額を上回る場合には、
控除しきれない額を現金で給付する制度である。
給付とほぼ同じ効果を有する税額控除を基本とすることから手当と
同様に、相対的に低所得者に有利な制度となる。
「給付付き税額控除」は多くの先進国で既に導入されており、
わが国で導入する場合には、所得把握のための番号制度等を前提に、
生活保護などの社会保障制度の見直しと合わせて、以下のいずれかの
目的若しくはその組み合わせの形で導入することを検討する。

ア)低所得者に対する生活支援
基礎控除を「給付付き税額控除」に替えることにより、
現在の課税最低限以下ではあるが生活保護レベルまでには
至らない低所得者に対して、生活支援を行う。

イ)消費税の逆進性緩和
消費税の逆進性緩和対策としては「複数税率」もあるが、
複数税率の導入は実質的に「消費税の物品税化」につながり、
消費税の特性である水平的な公平性を大きく損なう。
また軽減税率の対象を選択することが極めて困難であることに加え、
課税ベースが大きく侵食されて、結果的に基本税率が高くなる
ことにもつながるため、逆進性緩和策として適当とはいえない。
むしろ逆進性緩和策としては「給付付き消費税額控除」の導入が適当である。

ウ)就労促進
 職に就き自ら収入を得ても同額の社会保障給付が減ってしまえば、
手元に残る現金の額は変わらないため、就労の意欲を減退させかねない。
イギリスでは就労時間の伸びに合わせて「給付付き税額控除」の額を
増額させ、就労による収入以上に実収入が大きく伸びるようにしている。

という。
つまり、民主党の所得課税抜本改革の基本方針は、
イギリスが導入したような、いわゆる「負の所得税」の導入であろう。

政府委員でも森信茂樹中央大学教授を中心としたグループも提唱するが、
政治的には、民主党がかねてから主張してきた方向性である。



格差是正という観点からは、給与所得控除の見直しも検討の対象となる。
サラリーマンの経費の概算控除とされる給与所得控除は所得の
上限がないが、サラリーマンの必要経費が所得の増加に応じて
必ずしも比例的に増加するとは考えにくく、高所得者により
有利な制度になっている。
担税力に応じた課税を行う観点から、給与所得控除については、
一定の上限額を設けることが適当である。

サラリーマンであっても、本来は実際にかかった経費の実額を控除する
ことが望ましいが、現行の特定支出控除はほとんど機能していない。
自己研鑽費用、新聞等購読費、業務上不可欠な衣服費など特定支出の
対象を大幅に広げることにより、サラリーマンにとって使いやすい制度とする。


給与所得控除の是正にも手をつけ、実額控除の可能性を示唆することから、
国民皆申告制への移行を視野に入れているようにも思える。


(2) 相続税

相続税については、「富の一部を社会に還元する」考え方に立つ
「遺産課税方式」への転換を検討すべきである。
相続財産は社会の存在を前提に形成されたものであり、また、
その一部は社会保障給付が反映されているとも考えられる。
格差拡大を抑制する観点からは、このように形成された相続財産の
一部を社会に還元されることが適当であり、その意味では相続人が
資産等を得た時点で課税するのではなく、
遺産そのものに課税することが適切である。

としており、政府与党の方針、特に昨年の政府税調答申、今年1月の
福田内閣の閣議決定の抜本改正の方向性とは真逆を示している。

政府与党は、遺産取得課税への転換を主張するが、
これは、世界的な潮流との整合性もさることながら、
残されたものの課税負担の公平に主眼が置かれたものと考えられよう。
しかし、民主党案は、なくなる方の財産の過多に対する公平に
主眼が置かれているのであろう。そのため、現行の折衷案ではなく、
純然たる遺産課税を標榜するのであろう。

相続税のあり方に対する国民的な議論を経て、
コンセンサスを得たいところですね。
この議論は、我々税理士が在野において、
リードしなければいけないような気がします。

(3)法人税
(4)租税特別措置法の抜本的な見直し

民主党は租税特別措置の抜本的な見直しを行うこととしているが、
これを進めて課税ベースが拡大した際には、企業の国際的な競争力の
維持・向上などを勘案しつつ、法人税率を見直していくこととする。

地域経済の柱であり、雇用の大半を担う中小企業を支えることは、
税制の重要な課題であることから、中小企業の立場に立ち、
その規模に応じて活性化や競争力の向上を支援していく。
同時に起業についても、起業者・誕生直後の企業・出資者など
それぞれのステージや立場に応じて、適切な支援を講じていく。

なお、租税特別措置の見直しにあたっては、研究開発の促進など
真に必要な措置については、現在の時限措置から恒久措置へと転換していく。
また、温暖化を中心とする環境対策、雇用の維持・拡大、
自治体の工夫や努力などによる地域活性化などの重要課題への対応を
法人税制の中で図ることも検討する。

とした上で、
租税特別措置の実質は、隠れ補助金に他ならないことを指摘する。
そのため、

租特の新設・継続に当たっては、補助金同様、対象者が明確であること、
効果や必要性が明白であることなど、透明性の確保を通じて、
納税者の納得が得られるように改めるため、

「租税特別措置透明化法案」

を次期通常国会に提出し、租特の整理・合理化を進める。

とする。つまり、民主党案は、法人税の見直しの根本は、
特権化している租税特別措置の見直しに他ならず、
必要な措置は法人税法に組み入れる形で本法化し、
不必要な措置を廃止することを大前提としている。

この点は、政府与党と立場を明確に異にするところであろう。
私も租税特別措置のなし崩し的な半恒久化には反対である。
租税特別措置はあくまで特別措置であるのだから、
時限立法でしかるべきと考えるがいかがであろうか。

ただ、法人税について、民主党案が掲げる中小企業対策、
環境対策、雇用の維持・拡大等については、
政府与党案と比べて貧弱かつ具体性に乏しく、残念である。