もう一昨年のことになると思いますが、美術展覧会の日展(日本美術展覧会)で、不正な審査が行われていたという事件がありました。
書道界の重鎮が「書」の一部門で、有力会派に入選者数を割り振るよう審査主任に指示していたということです。
この報道の中で、興味深く感じたコメントがありました。それは「芸術家には一般的に純粋な人が多いので、少数の野心家に牛耳られやすい」というお話です。
不正など考えもしないような純粋な人たちの集団では、不正を画策するような人をチェックする周りの目も、牽制して張り合うような人もいないので、そういう行為が助長されやすいということなのでしょう。
これと同じようなことは、集団や組織の中では、いろいろな所であると思います。
例えば、女性同士のちょっと陰湿な関係は、当事者の女性でも多くの人が嫌がりますが、ごく一部にそんな動きを取る人がいると、それが全体に波及してしまうことがあります。
会社であれば、経営者や上位の管理職など、「発言力」が強い人の意見に、全体が引きずられてしまうようなことがあります。経営者の発言力が強いのは当たり前だとして、よく見受けられるのは、「業績を上げている」「結果を出している」という理由で、経営者や上司に一目置かれている人が強い発言力を持っているような場合です、
「業績を上げている」ということも「結果を出している」ということも、大事で素晴らしいことですが、往々にしてあるのは、そういう人は自部門や自分が関わることには一生懸命であっても、必ずしも会社の全体最適という視点では物事を見ていないということです。
ある会社でのことですが、やはり業績を上げ、結果を出しているという理由で上司から認められ、順調に昇進していった人物がいました。しかし、ある時期からその人が担当する部門の業績が徐々に下がっていきました。そもそも業績というのは浮き沈みがあるものですが、その人は自分の発言力の低下を恐れて、業績低下を自分の部下のせいにし始めました。
部下の心は離れてしまい、その部門の業績はさらに下がっていきましたが。経営陣はその人の言い分を受け入れ続けたために、結果的に問題を先送りすることとなってしまい、会社全体が危機的な状況に陥ってしまいました。
発言力がある人の意見が正解とは限りませんし、そもそも発言力の根源が正当なものとも限りません。必ず何らかのチェック機能が必要です。
組織運営では、そんなことも考える必要があると感じた一件でした。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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