要求ばかりで自分は返そうとしない人
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もうずいぶん前の話になりますが、ある会社の人事制度検討プロジェクトでのことです。
その会社の中核を担っている部長クラスの5名ほどをメンバーとしてプロジェクトを開始しましたが、すぐに検討が進まなくなってしまいました。
ある一人の部長が、とにかく自部門のビジネスが高く評価されるように、利益代弁者のような意見を終始言い続けるのです。強硬とか強引という態度ではありませんが、自分たちに有利に働きそうな意見をしつこく取り上げ、不利になる可能性が少しでも見えるといつまでも妥協しません。
社内的にはわりと新しい取り組みをしている部門で、それなりの苦労があることは理解できますが、まだまだ結果が伴っておらず、業績貢献はできていません。一般的に見れば、決して高い評価ができる状況ではありません。
にもかかわらず、この部長は「先進的な取り組みをしている優越性がある」「結果が出ないのは新規事業であれば当然」「自分たちのような部門は、他とは異なる視点で高く評価されるべき」などの主張を繰り返します。
論理的におかしくはありませんが、本来は大きな視野で全体最適を考えるべき立場の人が、「自分たちはすごくて、他はたいしたことがない」という主張を延々と繰り返すので、他の参加メンバーたちが呆れて議論が止まってしまっていたのです。
このままではどうしようもないので、このプロジェクトの最高責任者だった人事担当役員に、議論から離れた場で個人的な意見を求めてみました。
そこで聞かされたのは、この部長は他の場面でも同じように、自分の都合ばかりを主張する傾向があるということでした。
例えば、出入り業者に長期契約をにおわせながら散々値切った挙句、数回発注しただけで契約を打ち切ってしまったり、重要顧客からの紹介案件を条件が合わないという理由だけで断ってしまったり、どこかのお店に行っても、値引きやサービスを要求するわりには金払いが悪かったり、要するに「要求ばかりで自分は返そうとしない人」なのだそうです。
会社の中核を担う部長の一人ですから、この姿勢が「妥協せずに実入りを増やしている」ということはあるようですが、こと対人関係の面では“付き合いづらい”“信頼されない”ということがあるようです。
双方にとって得がある「Win-Win」の関係が、ビジネス上では好ましいといわれますが、この部長の行動パターンは、典型的な「Win-Lose」の関係です。
「Win-Win」は、実行しようとしても意外に難しいところがあります。一見すると「Win-Win」に見えても、実はそれが一部の局所的なもので、視野を広げると「Win-Lose」になってしまうことがあるからです。
自部門内では良いが全社的にはダメだとか、自社にとっては良いが業界全体としてはダメだとか、そのようなことは意外に起こりがちです。
私自身のことで言えば、いろいろな人を介して仕事をさせて頂くことが多いので、常に「Win-Win」の関係を意識しなければならないと思っていますが、どんなに意識していても、どこかで「Win-Lose」が起こってしまうことがあります。大きな要因は「全体を見る視野の不足」です。「見るべきものへの意識がなくて見えていない」「情報が足りなくて見えていない」などといったことです。
いつの間にか、「要求ばかりで自分は返さない人」と思われている可能性は、誰にでもあります。それはどこかで、自分の仕事のやりづらさにつながります。注意しておかなければなりません。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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