「いつも領収書をもらってますよね。なんかセコい」
「いいね、何でも経費にできて。ロクに税金払ってないでしょ?」
「経費にできるんだから奢ってよ」
フリーランサーになって以来、法人化した以降も、こんな言葉は山ほど言われます。
その度に頭の中では呪いの言葉を投げつけていましたが、真面目な私は、最初は「何の嫌がらせだろうか?」と真剣に考えていました。しかし、彼らはどうやら素でそう思っているのだと気付いたのは何年か前。
社会人の人口のうち大多数を占めるのは、いわゆるサラリーマン、契約社員、派遣社員、フリーターなどで、これらの層が得ている収入は、所得税の計算の分類上、「給与所得」と呼ばれます。
この「給与所得」を得ている人が納める所得税は、大抵は、雇い主の方で所得税額を計算してくれて、お給料から前もって引いておき(源泉徴収。支給額と手取りの差額)、それを納付してくれています。
そのため、所得税の計算や納付が身近でないせいでしょうか、税金の金額を計算することと納めることにあまり関心を持っていないように思います。
というわけで、今回は所得税と経費について、あらましに触れたいと思います。
給与所得のあらまし
さて、給与所得について、簡単に説明するために、正社員を例とします。
簡単に言えば、殆どの人にある月々のお給料のベースから、月々の源泉徴収する額が決まり、その年に支払う所得税がカウントアップされていきます。
お給料をもらう側から見れば、給料から天引きされる税金積立のようなものです。
そして、実際にその年に得たお給料の合計を元に、実際に納めなければならない税額が計算されますので、源泉徴収された額の合計との差額を調整します。これを年末調整と呼びます。
ここで、本来納める額よりも多く源泉徴収されていた場合は、「戻し」があり、これを還付と呼びます。
さて、上記では「実際にその年に得たお給料の合計を元に、実際に納めなければならない税額が計算される」とお伝えしましたが、ここをもう少し噛み砕いてみると、下記の計算式で求められます。(※ざっくり書いています)
お給料の合計(いわゆる年収) - 給与所得控除 - その他の控除 = 課税基準額
課税基準額 × 課税基準額に応じた税率と控除額 = 納税額
上の方の式から言うと、年収の額面から2つの「控除」(後で説明します)を引いた額が課税基準額となりますが、これは何ぞやというと、「この金額に税金がかかるよ」という数字で、この金額が大きければ大きい程、たくさん税金を払うことになります。
下の方の式の「課税基準額に応じた税率と控除額」というのも、基本的には課税基準額が大きくなればなるほど、たくさん税金を払うことになる・・・と、とりあえずはざっくり覚えてください。
つまり、課税基準額を小さくすればするほど税金は少なくなるのですが、そのためには上記で触れた「控除」の額を大きくしなければ、課税基準額は小さくなりません。
じゃあ「控除」ってなんなの?というと、簡単に言えば経費であり、「その他の控除」の方には、支払った生命保険料に対する控除や、住宅ローン向けの控除があります。
もう一つの「給与所得控除」というのは何か?というと、お給料の額に比例して計算してもらえる、みなし経費のようなものです。
実際に、何にいくら使ったかなどは計算も申告も不要で、自動で計算されるため、意識していない人も沢山いるかと思います。
フリーランサーとの比較
対してフリーランサーは、所得税の計算上の分類は、「給与所得」ではなく、「事業所得」となります。
簡単に言えば、給与所得を得ている人が自動的にゲットできる給与所得控除という、みなし経費のようなものがありません。
サラリーマンでいうお給料にあたる売上の合計から、サラリーマンでいう給与所得控除に当たる経費を合計した額を差し引いた金額が、課税基準額となります。
つまり、フリーランサーは、経費を正しく計上してはじめて給与所得者と同じような所得税計算の土俵に上がるのです。
※もちろん、だからといって、事業性のない経費を積み増したり、本来発生していない経費を発生したことにする等は厳禁です。
「経費」に対する考え方の違い
また、上記の所得税の話とは別に、経費に対する認識の違いも大きいものです。
サラリーマンにとって経費とは、「会社持ち」であり、自分のフトコロが痛まないということです。
もちろんコストに責任を持つマネージャなどはそうもいきませんが、それ以外のサラリーマンにとっては「会社にゴチになる」ということになるため、「経費で落とす」なんて表現を使います。
しかし、よく考えてみてください。その経費は、最終的にどうなるのでしょうか?
交際費なら交際費で会社の帳簿にコストとして記録されるために利益をマイナスしますし、その分の金額は小口現金か口座から出ていくことになります。つまり、会社は損しているわけです。
フリーランサーおよび零細企業にとっても、同じようなものです。
基本的には自分自身のプライベートな財布から出ていくのではなく、「事業」の財布から出ていくことになります。
しかし、サラリーマンと違うところは、自分自身のプライベートな財布と「事業」の財布が実体として一緒だ、ということです。
領収書をもらったとしても、現金が出て行ったりカード決済なら債務を負うわけです。つまり、経費が使いたい放題なんて話にはならないのです。
あくまで、事業の財布や帳簿上に経費として記録する、というだけです。
だから自営業や経営者は「経費で落とす」ではなく「経費に上げる(計上する)」というのです。
まぁ、だからといって何でもかんでも経費に上げればいいというものでもありません。
そのあたりは、「税務リスク」という言葉に触れる回で解説したいと思います。
このコラムの執筆専門家
- 田中 紳詞
- (東京都 / 経営コンサルタント/ITコンサルタント)
- 株式会社Exciter 代表取締役/主席コンサルタント
業務システムからモバイルまで、IT業界の無差別格闘家
専門はSAPなどの業務システムとコンサルティングですが、それに限らず企業にとって必要なITとその活用を考え、幅広い分野の経験を積んできたと自負しております。ITには多くの分野がありますが、一面ではなくトータルで勘案したプロの仕事をお届けします。
03-6280-3255
「会計」のコラム
「税務リスク」という言葉について(2013/09/07 08:09)
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