(続き)・・日本人の死因は約30年前からガンが1位を占めており、2位の心臓病、3位の脳卒中を大きく引き離しています。しかも罹患率、死亡率ともに右肩上がりで、その勢いは留まるところを知りません。今や国民の3人に1人はガンで亡くなる時代に入っているのです。
ガンが増えているのは外国も同じかというと、必ずしもそうではありません。例えば米国では10数年前からガンが減少に転じています。ガンだけでなく、心臓病や脳卒中などの血管性疾患も減少しています。主要な疾患が軒並み増加傾向である日本とは対照的な傾向といえます。
それでは米国では、なぜガンなどの病気が減り始めているのでしょうか。国を挙げての禁煙運動が奏功したことも大きいのですが、米国民の「食生活改善」が何より貢献したと考えられています。
具体例として、「5 A Day」すなわち毎日5皿以上(正確には5サーヴィング以上)の野菜と果物を食べましょう、という運動が挙げられます。市民団体だけでなく医師会など医療の専門家も、この運動に本腰を入れて取り組みました。
その結果、米国民の野菜の消費量は明らかに増え、約10年前には野菜の摂取量が日本を逆転しました。米国民の食生活といえばコカコーラにハンバーガー、ポテトチップスなどと、およそ不健康なイメージがありますが、米国人は近年すっかり野菜好きになり、健康的な食卓に変わりつつあるようです。
対して日本はどうかというと、野菜や果物の消費量は減少する一方です。それに反比例して各種加工食品やインスタント食品、ファストフードの類の消費量が増え続けています。この傾向はスーパーで、買い物客のカートの中身を覗いてみるとよく分かります。
それではなぜ、野菜や果物を食べることがそんなに大切なのでしょうか。野菜や果物には各種ビタミンやミネラル、酵素、抗酸化物質、食物繊維など多くの重要な栄養素が含まれていますが、その中でも代表格の一つは、何といっても「ビタミンC」です。
ビタミンCは主として新鮮な野菜や果物、イモ類などに含まれています。子供が野菜を嫌って食べないでいると、母親らが「野菜を食べないと病気になるよ!」などといって、何とか子供に野菜を食べさせようと躍起になります。これには深い意味がありますが、最も大きな理由の一つは「ビタミンCが不足しないように」という親の気遣いなのです。
ビタミンCが不足した場合、具体的にどのような不都合が生じるのでしょうか。有名な話としては「壊血病」が挙げられます。大航海時代には船乗りたちが航海中に歯肉などから出血し、衰弱して死に至る恐ろしい病気が蔓延していました。これは長期間にわたり新鮮な野菜や果物を摂取せずにいたため、ビタミンC欠乏に陥って発生したものです。
当初、壊血病は「奇病」として恐れられていましたが、その原因が分かったのは18世紀のイギリスに於いてです。軍医の研究で、野菜や果物を海軍の船員に食べさせると、壊血病を予防できることが判明したのです。その原因物質がビタミンCだと証明されたのは、更に時代が下って1920年代になってからです。
ビタミンCという栄養素が特定され、それを豊富に含む食材が次々と明らかになって以来、人間は必死にビタミンCを摂取することに努めました。何故ならば、人間はビタミンCを自ら作り出すことが出来ないからです。実は哺乳類のうち、ビタミンCを作ることが出来ないのは人間とサル、モルモットだけです。
人類がビタミンC産生能力を失った理由には諸説ありますが、恐らく人類の創世記に果物などのビタミンC源が豊富だったことなどが関係していると言われています。食事から充分にビタミンCを摂取できたので、敢えてビタミンCを体内で作る必要がない、と我々の祖先が遺伝的に判断したのでしょうか。
しかし現代はビタミンCがたいへん不足しやすい環境となっています。それは食材の選択の問題や農業の問題、調理法や保存法の問題など、様々な要素が関係しています。
人類は「火」の発見により食材を加熱して調理することを覚え、食べられるものが飛躍的に増えましたが、同時にビタミンCを熱で破壊することにもなってしまいました。さらに食材を長期間保存し、遠方まで運送し、精製加工することによって、皮肉なことに慢性的なビタミンC欠乏状態に陥ってしまっています。
そのような環境で、我々はどのくらいの量のビタミンC源の食材を摂取しなければならないのでしょうか。
健康状態にもよりますが、必要充分な量のビタミンCを野菜だけから摂ろうとした場合、およそ1日あたり「洗面器1杯分」は食べなければならないことになります・・(続く)
蒲田よしのクリニック(内科)
吉野 真人
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このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
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