小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「支援制度がなければ勉強できない」という社員たち
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ある会社の部門長面談の中で、「部下の人材育成」という話題になりました。
その人は技術系部門のマネージャーですが、かなり専門的な知識が要求され、仕事に直結する資格がいくつもあるような部門の人です。
そのマネージャーが部下との目標面談の中で、スキルアップのための資格取得などを話題に出すと、そこで決まって言われるのが「会社は支援してくれないのか?」ということだそうです。
この会社では、「社命で資格を取らなければならない」というとき以外の取得は、個人に帰属するものになるのであえて支援しないという考え方をとっています。
マネージャーが部下にこの説明をすると、「それではお金もかかるし業務も忙しいので資格取得に取り組む余裕はない」と答える人が多いそうです。「会社がお金を出してくれるならばやりますが…」というそうです。
もしここで会社が支援制度を作ったとして、それが効果的かといえば、私の経験ではあまりそうとはいえません。業務上のメリットにならなかったり、資格を取った途端に会社を辞めてしまったりする人は必ずいます。
社会人の場合、特に仕事に関わる勉強ということは、少ない時間の中でよくやっていると感心するような人がいるかと思えば、そういうことはまったくしないという人もいます。仮に自分のキャリアアップやスキルアップにつながることでも、仕事に関わることに自分の時間は一切使いたくないという人がいます。
この資格取得や研修受講に関する「支援制度」について、最近の傾向として見えるのは、「企業での人材育成は投資である」という考え方です。投資であれば何らかのリターンを考えるので、その効果が大きい対象に集中的に投資することになります。
良くない言い方かもしれませんが、会社としては成長見込みがある人材の方が投資効果は高いと考えますから、その人たちへの支援の優先順位は高くなります。
最近は階層別などの全社一律の研修よりは、テーマや受講者を限定した選抜研修の方が増えてきていると感じますが、こういう考え方によるところがあるでしょう。
「会社が支援すべき」という考え方は、どちらかといえば会社の福利厚生に近いニュアンスになります。社員の生活向上支援に近く、そこに何らかのリターンが必要という考え方はありません。
こんなところが、会社と社員の間で一番認識が食い違っているところだと思います。
あくまで私の主観ですが、今はもう会社が社員の生活を確実に守ってくれる時代ではありません。そんな中で、仕事に関する学びに自分の時間を一切使わないとなると、裏を返せば仕事に関するすべてのことを会社に依存する形になってしまいます。自律したキャリアを放棄すると、そのツケは結局自分に降りかかります。
「学ばずに仕事をすること」は、「練習しないで試合に出ること」と同じで、それでは本番でのパフォーマンスに限界が出てきます。本番での結果が良くなければ、評価や信頼を失うのは結局自分自身です。
仕事とプライベートのけじめは絶対に必要ですが、かたくなに「仕事は仕事」と決めつけるのは、今の時代ではあまり得策ではありません。
実際に「支援などなくても勉強する」という人は、すべての年齢層で増えてきています。自分のために学ぶ姿勢が必要です。
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