小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「私には無理です」というのは良くないことか?
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ある会社の課長クラスの人から、こんな話を聞きました。
女性の部下が、自分の業務指示に対して、「私の能力では無理です」「私にはできません」などと言って、前向きに取り組もうとしないそうです。新人レベルではなく、それなりの社会人経験は持っている人です。
私もその部下の女性とは面識があって何度か会話したことがあり、もともとあまり自分に自信がなく、物事を悲観的に考えてしまうタイプのようでした。そういう反応をするのもわかるような気がします。
上司の立場である課長は、「できると判断したレベルの業務を渡そうとしているし、説明も十分にしているが、経験がない仕事への反応がどうもネガティブになりがち」「前向きに捉えないので、仕事の指示に手間がかかって困る」と言っています。いつも後ろ向きな反応をされて、指示する根気が失せるという気持ちも、またよくわかります。
こういうときによく言われるのは、「できないではなく、やる方法を考えろ」「まずはやる気を見せろ」など、どちらかといえば指示される側の姿勢が問題だといい、できるかできないかわからなくても、まずは前向きに受け入れるべきとされます。
初めから失敗させるつもりで指示する上司はいませんし、未経験だったことを経験させて育成したい気持ちもあるでしょうから、「とりあえず受け入れる」という考え方に一理あることは確かです。
ただ、ここで問題なのは、慎重な態度を後ろ向きと決めつけ、「やる気があればできる」「やってみなければわからない」など、気合や根性論によるあまり論理的でない視点からの批判です。
もしも「できません」という態度が、論理と事実に基づく合理的なものだったとしたら、それは指示した上司に問題があります。逆に、何でも「できます」といっているのに、その結果が伴わない社員がいたとしたら、前向き?に見える姿勢は良いですが、こちらの方がよほど問題です。能力不足の人間の安請け合いは、業務上の大きなトラブルにつながる可能性があるからです。
「できません」「無理です」は、確かにネガティブな言葉ですが、言いにくいことをはっきり言うのは、それなりに理由があるはずです。自分なりに「無理」という確信があるのかもしれませんし、躊躇してしまう何かがあるのかもしれません。
そうであれば、その理由を取り除かなければ先に進むことはできません。それは慎重な事前準備や確認作業につながることでもあります。
「私には無理です」という発言にきちんとした根拠があるならば、それは決して良くない行動と言い切ることはできません。
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