小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「採用できれば・・・」の皮算用
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新たな事業の立ち上げ、人員体制の強化、不足人材の補充などの場面では、必ず「人材採用」がついて回ります。ただ、実際に採用活動を進める立場から見ると、「採用できれば・・・」という皮算用が大きすぎると感じることがあります。
ある会社でのことですが、いくつかの会社を吸収合併した後、相手企業の出身者から、退職者が続出したことがありました。その時の人事責任者は、何とか社員の流出を止められるように、組織風土を融合していくような施策がないかと、いろいろ考えを巡らせていました。
ここで、経営トップから指示された施策は、「辞めていくものは止められない。それ以上の人材を採用するように活動する」というものでした。これまでの採用実績の3倍以上の人数を中途採用するという計画です。しかもリーダー、マネージャーといった中核人材が中心で、そのための予算措置は惜しまないということでした。
しかし、競争が激しい採用市場で、いくら多くの予算を組んだからといって、それで採用に結びつくとは限りません。多くの人材を短期間に採ろうとすれば、レベルが足りなくても採用してしまうことが出てきますし、それでも採用人数は不足することが大半です。
会社の事業計画でも、この採用と同じように売上を2倍、3倍などと、大きく伸ばす計画をすることがありますが、そのほとんどは、業績が上り調子に推移している中で考えることです。この会社のように、人員が流出しているようなマイナスの状況で、いきなり大きく反転する想定では考えないでしょう。人が減るにはそれなりの理由があり、それを解決することがスタートになるはずです。
最近は、人材採用には不確実な要素が大きいと認識され、あまり無謀な採用計画が示されることは少なくなりましたが、それでもこの例のような話はときどき耳にします。
新規事業のリーダーや中核メンバーが架空の採用予定者になっていたり、「人がいないから仕事が取れない」と、採用担当に責任転嫁したりということは、どんな会社でも多かれ少なかれあることです。私も企業で採用活動を担当していた頃は、同じようなことがありました。
「人材採用」において、費用投下すれば人員は確保できるというような発想は、やはりどこかで人材と設備とを同じように捉えていて、「採用できない」「レベルが足りない」といった人材調達の不確実性を過小評価していることがあると思います。
機械設備などであれば、投資をしてそれを導入することで、どのくらい品質が上がるのか、生産性はどのくらい向上するのか、どのくらいの人員削減が可能かなど、ある程度の計算ができますが、人材の場合は、採用した人が機能しなかったり、場合によってはいない方が良かったなどといわれたりすることもあり得ます。投資効果がないばかりか、負債になることもあります。
それを避けるために、採用基準を厳しくするのでしょうが、そうなれば期日までに人数を満たすことは難しくなり、そこまでやっても確実な投資効果につながる保証はありません。
ここ最近でも、積極採用で急激に人数を増やした会社が、その後業績不振に陥って人員削減に転じた話はいくつもあります。
「まだ見ぬ優秀な人材」に期待する気持ちはわかります。ただ、人材は経営資源の中でも一番不確実性が高いということは、心に留めておく必要があります。
「採用できれば」と皮算用をする人が、まだまだ多いと感じます。
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