小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「誰が言ったか」を気にする会社
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いろいろな会社での人事コンサルティングを進める中で、社員対象のヒアリング調査をすることがあります。
基本的に「誰が言ったか」が特定できないような報告のしかたをしますが、その理由は社員の方々が委縮せず、できるだけ本音に近い情報を話してほしいからです。
ただ、この「誰が言ったか」をものすごく気にする会社があります。
どちらかといえば、経営者と現場の距離が近い、社員同士の顔がよく見えるような中堅中小規模の会社であることが多く、さらに個人商店的な会社の方がこの傾向が強い感じがします。もちろん、わりと規模が大きい会社でも同じようなことはあります。
例えば、組織の中心を担うメンバーには社内の様々な情報が集まるので、それを直接聞けば効率的に情報収集ができますが、課長や部長だからといって、誰でも同じように情報を持っている訳ではありません。その中身は人によってばらつきがあり、それが同じような内容でも、言う人によって信憑性は違ってきます。「誰が言ったのか」が重要になってくるのです。
この「誰が言ったのか」を気にするのは、私は組織運営の考え方に理由があると思っています。
社員一人一人は意見も考えていることも違いますから、それを個別に聞き、不満などがあれば対応していくことで、会社や上司と社員が、お互いに人としての信頼関係を保つことができ、それは組織の安定につながります。ここでは「誰が何を言っているか」を個別に知らなければなりません。
「誰が言ったのか」に対する注目は、意外に日常的に起こっています。
例えば、新社長の就任メッセージには、これからの重点施策が込められ、やらなければならない事の優先順位が変わってきます。「新社長」が言えば、社員は大事なこととして受けとめます。
例えば、ある部長に話を通そうとして、それが通りやすい人とそうでない人がいます。個人的な信頼関係の違いですが、「誰が言ったのか」によって、納得感が左右されることは必ずあります。
また、自分は挨拶をしない上司から「挨拶をしろ」と注意されても、そこには反発しか残りません。その人に言う資格があるのかということであり、これも「誰が言ったのか」が重要になるところです。
ただし、「誰が言ったのか」に注目しすぎることには、当然問題があります。それはその人に対する思い込みで、情報の受けとめが左右されることです。「この人が言っているから」など、物事の本質を見誤ってしまうのです。あまり信頼関係がない相手でも、実は本質に近い話をしていることがあります。
また、常に気にされていたり、話しやすいと見られていたりする人とそうでない人の間では、情報を受け取る機会に不平等が起こることがあります。
お互い人間である限り、相手に対する好き嫌いも得手不得手もあり、それは必ずコミュニケーション頻度に反映されます。やはり好きな人や信頼が厚い人とそうでない人とでは、話をする量も回数も全く違います。気にとめられている誰かの方が情報は集まりやすく、話を聞いてもらいやすくなります。
本来は「誰が」ということにこだわらず、会議や面談などの仕組みとして決められたコミュニケーションをしていく必要があります。
「誰が言ったのか」に興味を持つのは大事ですが、ここに注目しすぎると組織の成長を阻害します。
結局は、組織と個人のバランスをどう取るかが重要なのです。
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