小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「会社の昔話」をしたその後の違い
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会社の創業時の苦労や、先代、先々代といった過去の経営者が取り組んできたことなど、今いる社員に会社の歴史や過去の経緯を伝えていくのは大切なことですし、意外に多くの会社で行われています。
社歴が10年を超えてくると、創業メンバーや古参社員の人たちが、そういう話を持ち出す頻度が増えてくるようです。
先人の苦労を知り、それに感謝することは、私はあって良いと思いますが、この「会社の昔話」は、語られるニュアンスによって、まったく異なる捉え方をされることがあります。
意外に多いのは、「昔はこうだった」という苦労話の裏側に、「君たちが知らないことを自分たちは知っている」「今の人たちの方が楽をしている」「創業時の苦労を知る人にもっと感謝すべき」など、「昔の方が大変だった」という心理が隠れている場合です。
そんな年長者が、後から入社してきた若手に対して、自分たちの過去の実績を盾にして、「もう少し尊敬しろ、感謝しろ、敬え」というような承認欲求を満たしたいように見えます。少しきつい言い方をすれば、「ただの自慢話」です。
しかし、こういうニュアンスの昔話は、後から入った若手社員の心には、ほとんど響きません。会社に入社する人は、その時の会社の事業内容、所在地、社員数、その他の会社スペックを見て、それが自分の希望に合致するかをみて応募し、そこから入社に至る訳です。
会社を選ぶ中で、社歴や創業年数という要素はあるでしょうが、そこには少人数のハードワークで事業を軌道に乗せたとか、経営危機があって相当つらい思いをしたとか、そこから何とか立て直したとか、そういう過去の物語的な要素は、会社選びの中ではほとんど関係ありません。
そもそも、後から入社した社員がこの手の話をされても、「昔は大変だったのですね」と思うくらいで、これから先に活かせることはありません。
一方で、「昔はこうだった」という話を、企業理念を浸透させるために語り継いでいる会社があります。
そこでは、こんな苦労があったとか、厳しかったとかではなく、「こういう企業理念だったからあえてこんな取り組みをした」「理念を守るために安易な妥協をしなかった」などのエピソードを言い伝えています。こういう内容の話によって、いま在籍しているそれぞれの社員が、これから自分が会社の中でどんな行動をとっていくべきなのか、どういう判断基準が会社の価値観にあっているのかという指針が見えるようになります。
会社の中で、先人の苦労に敬意を持つことは良いですが、その「会社の昔話」を、ただの苦労話や自慢話で終わらせるか、それとも将来を語るための材料に使うのかでは、とても大きな差があります。
前者では当事者意識が持ちづらく、どこか他人事でその人の心に響きませんが、後者であれば、その考え方が自分自身にかかわることであり、その共感が会社への愛着につながり、企業文化に合った行動を促します。
「会社の昔話」を語るとき、当事者でない人でも共感できる話し方があり、それができれば会社の理念、原点、価値感を、ぶれずに伝承していくことができます。
会社の歴史をただの苦労話、自慢話で終わらせるか、それとも理念の伝承や共有に活用できるかは、先人である経営者、上司、先輩たちが、何をどんな姿勢で語るかにかかっています。
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