小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「全額会社負担」が効果的ではなくなってしまうこと
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少し前のことですが、関係先のある会社が久しぶり社員旅行を実施するということで、その場に参加させて頂いたことがあります。
その会社では、かつては社員から会費を集め、費用の一部を会社が補助する形で様々なイベントを実施していましたが、会社の業績上の問題などがあって、それらの行事は一時中断することとなっていました。
その後徐々に業績も持ち直し、あらためて会社行事を復活させようということで、会社の旅行を企画したということでした。
社員旅行自体は久しぶりの実施ということもあってそれなりの盛り上がりをみせ、参加したみんなが楽しむことができたようでしたが、その中でちょっと気になる言葉を耳にしました。
それは一部の社員が言っていた、「昔の旅行の方が豪華だった」「会社はケチっているのではないか」という話です。
社長をはじめ、会社側としては、「これまで社員には苦しい中を頑張ってもらってきたので、少しでもそれに報いたい」「できるだけみんなに楽しんでもらいたい」「それをこれからの活力にしてほしい」などという思いがあり、今までやむなく中止していた社員旅行を復活させることで、社員のみんなに少しでも喜んでもらいたいと純粋に考えていました。
この思いに対して、ほとんどの社員はその気持ちに素直に感謝していましたが、一部にそうでない人もいたということです。
これと同じような話は、私の経験上では、いろいろな会社で何度もあります。会社としては相当に頑張っての負担であるにもかかわらず、社員はそこに有難さや感謝の気持ちなどはあまり持っておらず、逆に不平不満を言っているような場合です。
実は同じようなことは海外の企業でもあり、例えばシリコンバレーの有名IT企業では、社員食堂でのランチの無料提供をしているところがいくつもありますが、提供を始めてから何年かが経ってくると、これを「おいしくない」と批判するような社員が出てきたそうです。
これらに共通することは二つあります。
一つは、初めの頃はありがたみを感じていたことでも、それが継続されて当たり前になってくると既得権益になってしまうということで、もう一つは、自分が一切お金を出さないとなると、既得権益の感覚が強まっていくということです。
ある会社では、全額会社持ちの豪華な宴会をやったのに、社員は当たり前のように飲み食いをして、何のお礼もなく帰ってしまったと社長が嘆いていたことがありました。
その後この会社では、金銭的には社員負担と会社負担のバランスをとりながら、行事の企画自体は社員に任せる形をとったところ、既得権を主張するような物言いは一切なくなっていきました。
これはあくまで私の経験上のことですが、「全額会社負担」だからといって、その分よけいに社員から感謝されることはありません。また、それを定常的に行うほどに既得権益になってしまい、当初の効果は薄れていきます。
これを防ぐには、ある程度の費用を出させるかわりに企画や運営の権限を任せたり、会社補助を定常的に決めないことで既得権にならないようにしたり、方法はいろいろ考えられます。思いがけないサプライズの方が、喜びや感謝の度合いが増えるということもあります。
かかる費用を会社が全部負担したからといっても、それでみんながいつまでも喜ぶわけではありません。せっかく用意した会社の予算です。効果的に使うにはそれなりの演出も必要です。
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