以前に同じような内容を書いたことがあるのですが、最近もまた似たような場面に遭遇したので、あらためて書きたいと思います。
ある組織のマネージャーの方ですが、「部下を育てるには甘やかしてばかりではダメなので、ビシビシ仕込むように配下のリーダーたちにもいつも言っている」とおっしゃっていました。
普通に聞いていれば何の異論もなく、「まったくその通り!」と思えるのですが、私がいろいろな組織で同じことをおっしゃる方々を見ていると、この“ビシビシ”の中身に問題があることが結構多いと感じています。「厳しさ」を勘違いしているように思うのです。
どういう事かというと、「目標が高い」「要求レベルが高い」という厳しさは大いに結構と思うのですが、「言い方がキツイ」「フォローがない」「威圧的」といった接し方や当たりの厳しさが前面に出てしまっていることがあります。雰囲気をピリピリさせることを「厳しさ」と思っているのです。
思えば一昔前の体育会系部活などでは、先輩にはうかつに話しかけられない、理不尽なしごきや体罰など、所属したことがある人ならば多少なりとも経験があると思います。そして今になって思えば、上下関係を学べた、精神面が鍛えられた、チームにけじめがあったなど、それなりに良かったと捉えている部分も多いのではないでしょうか。
では最近の流れはどうかというと、メンバー間のコミュニケーションを阻害するような上下関係は好ましくないとされますし、体罰などは当然厳禁、トレーニングにも論理的な裏付けが必要となります。メンタル強化も単なる根性論ではなく、その人に応じて意図を持ってやります。
もちろん「黙って言われたとおりにやれ!」ということが必要な場面はあるでしょうし、何でも理屈ばかりではありませんが、権威や恐怖で一方的に押さえつけて有無を言わさずにやらせるということは、頻度としては少なくなっています。その方が結果につながるし効果的だからです。
自分の部下や後輩への接し方というのは、どうしても自分の経験則に引きずられます。経験則を肯定的に捉えていて自信があるとすれば、なかなかそこから離れられません。自分がキツイ当たりの接し方をされてきて、今はそれが良かったと思っているとすれば、どうしてもそういう傾向が出ます。
また自分がリーダーのやり方に反感を持っていたとしても、いざ自分がリーダーの立場になると、いつの間にか同じことをしていたりします。意識していることは反面教師にできますが、そうでないと意外に同じことをしているものです。無意識のうちにノウハウとして、自分の引き出しにしまわれているのです。
私自身ももともと体育会的な感覚が強いですし、そう振る舞うことが良いと思っていた時代もありましたが、いろいろ経験する中で徐々に感覚が変わってきました。中にはキツイ雰囲気で力を出す人はいますし、自分もそういう人の方が扱いやすいですが、それぞれのメンバーが最良のパフォーマンスを出すことがチームのためと考えれば、それぞれの人に対する接し方は違ってきます。自分の感覚では“甘い”接し方でも、そうした方が力を出せるなら、その人に対してはそうするべきです。
いろいろなリーダーシップ論、部下育成論がありますが、それぞれがその人にとっての成功体験であることが多く、現実の場面での方法は一つではありません。そう考えると、リーダー一人一人がいかに多くの引き出しを持つかという事が、難しいですが実は一番重要なように思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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