事業承継と遺言 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
弁護士

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対象:事業再生と承継・M&A

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第7 遺言

1 遺言の機能

 遺言とは,一定の方式で表示された個人の意思に,死後,それに即した法的効果を与える法技術のことをいいます。

 前述した通り,法定相続によった場合,相続財産は,相続人が数人あるときは,共有となり,通常は,相続人間の遺産分割協議で相続財産を分けることになります。その際,相続紛争に発展してしまうこともしばしばあります。そこで,遺言は法定相続に優先しますから,遺言で財産の分け方を具体的に指定しておくことが望ましいといえます。

 遺言は,主として法定相続を修正する被相続人の意思表示の手段として機能します。

 

2 事業承継と遺言

 事業承継と関連する遺言事項としては次のものが挙げられます。

相続の法定原則の修正

推定相続人の廃除および廃除の取消(民法893条,民法894条2項)

相続分の指定または指定の委託(民法902条)

遺産分割方法の指定および指定の委託(民法908条)

最長5年間の遺産分割の禁止(民法908条)

特別受益の持戻しの免除(民法903条3項)

遺産分割における担保責任に関する別段の意思表示(民法914条)

遺留分減殺方法の定め(民法1034条但書)

相続以外の財産処分

遺贈(民法964条)

一般財団法人のための財産の拠出(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律158条2項)

信託の設定(信託法2条)

身分関係に関する事項

非嫡出子の認知(民法781条2項)

未成年者後見人の指定(民法839条1項)

未成年後見監督人の指定(民法848条)

遺言の執行に関する事項

遺言執行者の指定または指定の委託(民法1006条)

※ 以上のうち,推定相続人の廃除および廃除の取消(民法893条,894条2項),遺贈(民法964条),非嫡出子の認知(民法781条2項)は生前行為でもすることができます。ただし,遺贈を生前行為で行う場合は,単独行為ではなく贈与契約という形をとることになります。

 

3 付言事項

 遺言は1で挙げた遺言事項を,ただ簡潔に書けばいいものではなく,その内容が相続人全員に納得してもらうものでなければなりません。

 なぜなら,遺留分を放棄していない相続人がいれば,遺留分減殺請求権によって,その内容は制約を受けることになりますし,その内容通りに相続が行われたとしても,残された相続人間に確執を生じさせてしまい,後の会社の経営に影響が生じることもあるからです。

 そのためにも,遺言には,付言事項をある程度書いておくことも必要と考えられます。具体的には,遺言による財産分配の方法についての理由を記載することがよいでしょう。

 

4 遺言の方式

 遺言は,遺言者の真意を確保し,同時に偽造を防止するため,厳格な要式行為となっています(民法960条)。遺言の方式には,普通方式と特別方式がありますが,事業承継との関連で問題となるのは,普通方式ですから,以下,普通方式について説明します。

(1)自筆証書遺言

 自筆証書遺言とは,遺言者が,その全文を自筆で作成するものです。

自筆証書遺言は,証人の立会いなく自分一人で書くことができ,費用もかからず,遺言の存在自体も秘密にできるという長所があります。

 しかし,遺言者が自ら遺言書を保管しなければならないため,遺言書を紛失したり,遺言者の死後,発見されないことも起こりえます。

 また,偽造・変造の危険もあり,その有効性が争われることもあります。

 さらに,自筆証書遺言では,相続開始後,家庭裁判所に提出して,検認手続を経なければなりません(民法1004条)。

 検認手続とは,遺言の偽造・変造,隠匿等を防止するために,遺言書の形式を調査確認し,検認調書を作成する手続をいいます。遺言の有効,無効を審査するものではありません。この手続を怠ると5万円以下の過料に処せられます(民法1005条)が,遺言の効力自体には影響はありません。この検認手続を行うためには,被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍を揃える必要があり,大変な時間と労力がかかります。これらのことから,自筆証書遺言は財産の種類が少なく遺言の内容が単純であるような場合であって,かつ,遺言の書き方をチェックできる人が周りにいる場合にのみ利用するのがいいでしょう。

(2)秘密証書遺言

 秘密証書遺言とは,公証人や証人を前に封印した遺言書を提出して,遺言の存在は明らかにしながら,その内容を秘密にして遺言書を保管することができる方式の遺言です。

 秘密証書遺言の長所は,遺言の内容を秘密にし,かつ,遺言の存在は明らかにしておくことができる点に尽きます。

 なぜなら,その作成自体については公証人の関与がありませんので,方式の不備があれば,無効となる可能性があり,紛失や偽造・変造の危険があること,家庭裁判所での検認が必要であることは,自筆証書遺言と変わらないからです。

 そもそも,事業承継を考える場合,後継者を明らかにして,事前に相続人や関係者に対してよく説明をして,その納得を得ていることが重要です。

 遺言の存在を明らかにしながら,その内容を秘密にしておくことは,推定相続人は果たして期待通りの遺産をもらえるのか疑心暗鬼となったり,あるいは,相続開始後,期待通りの相続財産をもらえなかったりした場合には,かえって,争いの火種を作ることにもなりかねません。

 したがって,秘密証書遺言は,事業承継を目的とした遺言としては,あまりおすすめできる方法ではありません。なお,費用は定額で1万1000円です(公証人手数料令28条)。

(3)公正証書遺言

 公正証書遺言とは,公正証書により作成される遺言のことをいいます。

 公正証書遺言は,遺言作成について正確な知識を有している公証人が作成するものですから,内容的な面でも形式的な面でも,遺言に不備が生じることはほとんどありません。また,公正証書遺言は,作成後は公証役場で保管されるため,紛失や偽造・変造の危険がありません。

 そして,家庭裁判所での検認も不要になります。したがって,公正証書遺言であれば,直ちに,相続に関する手続を進めることができます。

 作成の際に費用がかかり,手続が面倒ということがありますが,相続紛争防止のためにも,公正証書遺言を利用することをおすすめします。

 なお,公正証書遺言は,被相続人が死亡した場合には戸籍謄本等の添付があれば,どこの公証人役場においても作成の有無を検索することができます。詳しくは,日本公証人連合会の下記ホームページをご参照ください。

http://www.koshonin.gr.jp/index2.html

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