病院やクリニックの内科外来診療を行なっていると、毎日のように健康診断や人間ドックの結果表を持参して受診される方がいらっしゃいます。その中には一昨年来、厚労省などが重点的に取り組んでいる「特定健診」も多数含まれます。特定健診はウエスト廻りや血糖値、血中脂質などを焦点に、糖尿病や肥満などの生活習慣病を撲滅するために、厚労省が音頭をとって普及に努めている健診事業です。
このような健診やドックの結果で目立つのは、やはり肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧、痛風といった、生活習慣病としての「メタボリック症候群」です。巷では略して「メタボ」などと揶揄され、しばしばマスコミをも賑わしています。一躍、時代の流行語ともなっているメタボは時には恐れられ、時には嘲笑の的となり、時には対岸の火事として問題先送りの対象となっています。
その「メタボ」ではどのような症状があるかというと、多くの場合、見事なまでに無症状です。つまり太っても血糖値が高くとも、少なくとも初期には痛くも痒くもありません。それでは「メタボ」が万病の元、諸悪の根源のように言われているのは、どのような理由によるのでしょうか。それは動脈硬化がじわじわと進行し、ある日突然、脳梗塞や心筋梗塞のような死に至る病に襲われることが一つの理由です。
実際に心筋梗塞などの心臓病は増加の一途をたどり、脳梗塞も基本的に増加傾向です。一方で各種ガンも急増中ですが、間接的ながら「メタボ」の蔓延との関連性が指摘されています。日本人はこれまで世界一の長寿を誇ってきましたが、このような生命に関わる疾患の増加ぶりをみると、その輝かしい地位も今後は危うい要素がある、といえるのではないでしょうか。
例えば糖尿病の患者数はある統計によれば、予備軍まで含めて1600万人にも及びます。これは国民の何と7.5人に1人の割合です。糖尿病に罹りやすい中高年層に絞ってみると、5人に1人の割合にまで確率が跳ね上がります。脂質異常症や高血圧、痛風に関しても大なり小なり同様の傾向で、もはや「1億総メタボ」とでもいえる、きわめて危機的な状況となっています。
それではそのようなメタボの国民的な蔓延は、いったいどのような事情によるのでしょうか。よく指摘されるのが「飽食」と「運動不足」です。現代は農業技術や食材の流通が発達し、また国民の所得水準が向上したことなども関係して、高カロリー、高脂肪の欧米型の食生活が普及しました。今では米国などで称賛されている伝統的な日本の健康食は、半ば過去のものとなってしまったようです。
それと並んで運動不足も国民的課題となっています。戦後の公共交通機関や自家用車の普及などによって、歩く機会が大幅に減りました。それに洗濯機や掃除機など電化製品の普及によって、家庭の主婦も含めてあまり身体を動かさなくとも快適な生活を送れるようになりました。さらに近年の「IT」化の急速な進行によって、デスクワークが圧倒的に増えたことも運動不足に拍車をかけています・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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