ある社長にこんなことを言われました。「自分で判断しようとしない社員が多くて困る」とのことです。
でも、私はその会社の環境では仕方がないと思っています。社長自身が一方的な指示命令を出すことが多く、社員に判断させる余地を与えないことが多いからです。しかし、社長にはその自覚がありません。理由は社内で誰からも指摘されることがないからです。
私のような社外の第三者であれば、気にせず指摘をすることはできるかもしれませんが、社員からすれば、社長によけいなことを言って何か不利益を被りたくない心理があるのは当然でしょう。
また、社長が言う「判断しない社員」には、わりと上位の管理職の人たちも含まれています。
この管理職たちは、社長の態度が「一方的」などと批判をしますが、部下のことは社長と同じように、「自分で判断しようとしない」と言います。
無意識のうちに社長と同じことをしていて、やはりそのことに対する自覚がありません。
別の会社のある社長は、自分の部下である部門長たちの振る舞いが、かつての自分を見ているようで心配だといいます。「一方的な命令」「強い言葉」「横柄に見える態度」が見られるそうです。
社長自身は、あるきっかけからその振る舞いのせいで、自分が裸の王様になっているのではないかと気づき、以降はどの社員に対しても、絶対に威圧的な態度をせず、意見を良く聞き、いろいろ質問をし、取り組み方を一緒に考えるように心がけたそうです。
そうやって周りと接していると、社員からの遠慮は少しずつ減り、本音の話が聞けるようになっていったそうで、自分が気づかなかった現場の事情や、意外にいろいろ考えて行動しているという事実がわかるようになったとのことでした。
今の部門長たちの態度は、自分が良くない手本を見せてしまったせいだと反省しているそうです。
これらと似た話は、実は多くの会社で耳にします。上司からされた嫌な振る舞いを、そのまま自分の部下にもしていて、しかもそのことを自覚していません。「無意識の伝承」とも言えるもので、そこでは自分で気づいて行動を変えられる人はほとんどいません。前述の社長のように、自分の問題に気づいたケースはとてもまれなことです。
こういうことが起こる場合に共通しているのは「接したお手本(上司の数など)が少ないこと」です。そうなると自分がその立場になったとき、いつの間にか自分が経験してきた嫌な上司、良くない上司と同じ行動を取っています。
例えば、トップダウン一辺倒の上司を批判していても、自分が体験したやり方がそれだけだとすると、トップダウン以外の問題解決の引き出しを持つことができず、結果的にほぼ同じやり方をしてしまいます。良くない振る舞いでも、それが無意識のうちに伝承されているのです。体罰を受けていた子が親になると、同じように体罰をしてしまうという話がありますが、そうなってしまう構図に似ています。
反面教師を実践するのは、本当に難しいことです。
これを解決するには、まずは自分の行動を「意識」することです。上司の良くない振る舞いについて、少しでも反面教師を意識していれば、それとは違う方法を自分なりに考えたりしますが、無意識のままではそうはなりません。
上司などから受けた良くない振る舞いは、それが“無意識”のうちに伝わって定着し、自分でもやってしまっていることを“意識”しなければなりません。
上司の行動パターンは、企業文化の一部です。良くない文化を変えるには、まずそれを「意識」することから始める必要があります。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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