ある記事で、ここ最近は音楽番組が減っているという話題がありました。
昔はゴールデンタイムに放送される歌番組や音楽番組がいくつもありましたが、今は一つだけ?とのことです。
その理由で大きいのは、やはり視聴率が上がらないということのようで、ネットのおかげでテレビを見る人が減ったとか、嗜好の変化や多様化で何人もの歌手が出演するような従来形式の番組が見られなくなったとか、考えられる理由はいろいろあるようです。
そんな中での問題の一つに、「新人アーティストの売り込みが難しくなっている」ということがあるそうです。
これまで音楽番組は、アーティストの新譜プロモーションの場として重視されてきましたが、音楽番組が減っていることに加えて、最近は複数のアーティストが出演するスタイルの番組よりも、少数のアーティストを掘り下げるようなスタイルの番組が増え、こうした番組に出られるのはすでに売れたアーティストがメインなので、新人はなかなか出演しづらいそうです。育てたくてもそのための場がないということです。
これと同じようなことは、会社の中でもあります。各社で違いはありますが、「新人を育成する場や機会が減っている」ということです。
私がかかわることが多いIT業界では、特に受託や請負のプロジェクトで、新人や初級技術者のチーム参加をクライアントから拒まれるということがあります。「他社の人材育成まで考慮する余裕はない」ということです。
費用は自社持ちの無償参加を打診しても、「新人の面倒を見るのに他のメンバーの手を煩わせるから」という理由で拒否されることまであります。
仕事を身につけるために、最も重要なのは実務経験ですが、社会人経験の浅い者にそのための場が与えられないというのは、人材育成の上ではかなりつらいものがあります。
また、形の上ではOJTだと言いながら、いきなり単独での営業活動に出させたり、基礎知識がないままで現場に放り出したりする会社があります。
その厳しい状況を乗り越えられる人もいるでしょうが、「練習なしでいきなりプロの公式戦に出た」という状況なので、対応できるのはごく一握りでしょう。レベルが違う場所に準備なく放り込まれることで、場合によってはいきなりケガ(失敗、挫折、トラブル・・・)をして、結局そのまま引退(退職)となってしまう危険があります。
これも、「適切な形で育成機会を与えられていない」という意味では、同じようなことです。
しかし、いくら育成機会を与えたいと考えていたとしても、現実はそこまでの余裕がないという会社がほとんどではないかと思います。それが必要なこととわかっていても、自社の事情で許されません。こればかりは、今の環境に合わせて工夫をしていくしかありません。
先ほどの新人アーティストのプロモーションでいえば、最近は音楽番組の代わりに、別の様々なツールを使って仕掛けをしているのだそうです。
例えば、ネットのライブ動画を使って新譜の発売日に合わせてイベントを仕掛けたり、定期的にミュージックビデオを流したりするのが、最近では当たり前となりつつあるそうです。「24時間生放送」などの長時間に渡る放送はツイッターなどネットで話題になりやすく、興味がない人でも視聴や購買につながる可能性があるとのことです。
会社としての育成の場も、いろいろ工夫している例があります。
始めは社内プロジェクトに参加させて技術経験を積ませたり、先輩との同行営業を定期的に組んだり、「ブラザー制度」や「メンター制度」を導入して、相談したり指導を受けたりしやすい体制を作ったり、ということがされています。最も大事なのは「孤独にしない」ということです。
育成する場は多いに越したことはありませんが、通常は予算にも時間にも制約があります。そしてその制約は、たぶんこれから少しずつ厳しくなっていくでしょう。
「会社がきちんと教えていない」と批判するばかりではなく、今の環境に合わせて「育成する場づくり」を工夫していくことが必要だと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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