役員のみなし退職金の損金性(3) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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役員のみなし退職金の損金性(3)

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発表 実務に役立つ判例紹介
今日は、役員に対するみなし退職金の損金性が認められた数少ない事例から、
平成18年11月28日裁決を紹介します。

事実の概要は以下の通りである。

 審査請求人X社の創業者であり取締役会長であるAの長男である
代表取締役Bは、平成13年ころから独断的な言動が目立つようになり、
その子供である取締役専務Cや取締役常務Dらと対立するようになったところ、
平成13年6月ころ、Aは、Bに対して、代表取締役を退任し、
Cを新たに代表取締役に就任させ、X社の経営から退くよう迫った。
平成13年10月にAとBは、Bの代表取締役の退任について
数回話し合いを行い、顧問税理士の担当者Eとも相談の上、
(1)Bは平成14年10月31日をもって取締役を辞任し、
取締役でない会長に就任すること、
(2)Cの代表取締役就任後、Bは営業について一切関与しないこと、
(3)本件辞任後の報酬は、代表取締役退任時の役員報酬の額の半額とすること
で合意した。
 平成14年1月にCは代表取締役に就任した後、
Bは、同年10月17日にX社の代表取締役を辞任する旨の辞任届を提出し、
同日開催の臨時株主総会・取締役会において、Bの取締役退任、
取締役ではない会長への就任および退職慰労金の支給が承認・決定された。
 X社は、Bの代表取締役退任および会長就任について、
社内報に当該人事異動およびあいさつ文をそれぞれ掲載するとともに、
取引先等にあいさつ状を送付した。
 X社の平成14年10月期の法人税について、X社がBの取締役辞任に際し
支給した役員退職金を損金の額に算入したところ、審査被請求人Y税務署長は、
退職の事実は認められないから、当該退職金は役員賞与に該当し
損金の額に算入されないとして更正処分等を行ったのに対し、
X社がその全部の取消しを求めたのが本件である。

本件における審判書の判断は以下のようなものである。

(1)みなし役員とは、相談役、顧問その他これらに類する者で
その法人内における地位、その行う職務等からみて他の役員と同様に
実質的に法人の経営に従事しているものをいい、さらに、
法人の経営に従事するとは、法人の主要な業務執行の意思決定に
参画していることをいうものと解するのが相当である。
 本件辞任は、CとBとの間の経営方針等の対立に端を発し、
本件合意を経て、長期化したBの経営体制を刷新するために、
BをX社の経営から引退させることを目的として行われたものであり、
X社内においてBが更迭されたものと認められる。
また、Bは、本件辞任後において、(1)役職の新設や異動、給与査定など、
人事上の決定に関与していないこと、(2)取引先の選定や新規契約など、
営業上の決定に関与していないこと及び(3)設備等の取得や修繕など、
会計上の決定に関与していないことから、経営に関する重要事項の意思決定に
参画する機会を与えられていないものと認められる。
そうすると、Bは、本件辞任を契機として、取締役の地位を追われ、
経営の第一線からの引退を余儀なくされたものであり、本件辞任後は、
Bの過去の功績に報いるために与えられた名誉職である会長として、
単に名義上存しているにすぎないものと言わざるを得ない。
したがって、Bは、本件辞任後、X社において実質的権限を有しておらず、
その経営に従事していると認めることはできないから、
Bはみなし役員に該当せず、法人税法上の役員には当たらない。

(2)Y税務署長は、Bが本件辞任後も他の従業員給与をはるかに超える額の
給与等の支給を月月受けているから取締役としての地位にある旨主張するが、
Bに支給する金額の決定は、Bの行う職務内容等を基礎としてされたものとは
認められず、単に代表取締役退任時の役員報酬の額の半額とする旨の合意に
基づいてされたにすぎないから、その金額の多寡のみをもって直ちに
Bが取締役としての地位にあるものと言うことはできない。

(3)Y税務署長は、本件各議事録にはBを出席取締役又は取締役会長とする
表記が、また、本件ホームページの会社組織図には取締役と社長との間に
会長を位置付ける表記がある旨主張するが、それらの記載は事実に即しておらず、
その実体を表したものとは認められない。

(4)Y税務署長は、Bが本件各幹部会及び本件各品質管理委員会へ出席の上、
経営陣の一人として経営方針等を指示するあいさつを行っている旨主張するが、
当該各会議自体が経営の重要な意思決定を行う場であるとは認められず、
たとえBがX社の求めるまま当該各会議に出席したとしても、Bが会長や
ISOの提案者という立場からすれば特段不自然であると言うことはできず、
そのあいさつの内容も儀礼的なものにすぎないことから、
Bが経営方針等に関する指示を行っているとは認められない。

(5)Y税務署長は、本件各営業所日誌及び本件各設備稟議書には、
Bのサインがあるから、請求人の業務内容を管理監督している又は
費用支出の可否を判断している旨主張するが、それらのサインは単に
Bが閲覧したことを示すにすぎず、その閲覧した本件各営業所日誌及び
本件各設備稟議書の件数もごく僅かであり、Bがサインしていることをもって、
直ちにBが請求人の業務内容を管理監督している又は費用支出の可否を
判断していると言うことはできない。

以上のように判断して、X社が支出したBのみなし退職金の損金性を是認した。

本件においては、息子である専務取締役Cが祖父である取締役会長のA、
および顧問税理士を味方につけて、父である代表取締役Bに対して行った
クーデターの結果、Bが経営の実権を奪われ、取締役ではない会長に就任した
のであるから、会長職に留まるとはいえ、職務内容の激変に伴う給与額の激変により、
みなし退職金を支払うことを容認したのである。

多くの事例とは決定的に異なる点は、代表取締役を退任したBに
経営の実権が本当に残されていないことであろう。

また、本件において注目すべきは、状況証拠とはいえ、
CやEから非常に多くの物証が提出されている点である。

我々の職務において、注意しなければならない点であるが、
状況証拠とはいえ、裁判までになった場合を想定して、
判断基準となった書証を残しておくことは必要であろう。

また、本件では、取締役会議事録や株主総会議事録が、
課税庁側の証拠として使われていることには、要注意でしょう。
この議事録では、Bが取締役として各議事に参加していることになっており、
ワープロ書きされた記名に対して、押印されていることが
課税庁側から、Bは取締役としての実権を持っていることの証拠とされたのである。

これも注意点であるが、
もし仮に税理士が勝手に作った議事録であったとしたら、
有印私文書偽造になるわけですから、この書類によって、
裁判所が証拠として認定し、敗訴することになれば、
税理士賠償訴訟事件になることは避けられないであろうし、
保険の方でも免責事由になるであろう。