こんにちは。消費者考動研究所代表 消費者教育コンサルタント/消費生活アドバイザーの池見です。
最近、テレビや新聞などのマスコミで話題になっている消費者問題と言えば、株式会社カネボウ化粧品(以下 カネボウ)のリコールではないでしょうか。医薬部外品有効成分“ロドデノール” 配合した化粧品を使用すると、皮膚に白斑を引き起こす恐れがあるため、現在回収と治療費等の賠償対応を行っています。
この問題、話題になった理由の一つにはその規模の大きさがあります。
対象となる商品のこれまでの総販売個数は、約436万個。そのうちの既に回収できた個数は約118.4万個(回収率 約27.2%)。また、何らかの白斑症状を罹患したと思われる被害者数は7,266人に及びます。*1
これだけ大規模なリコールと製品事故はあまり例が無く、しかも被害はまだ更なる拡大が懸念されています。
そして、もう一つの問題は、カネボウが早い時期に白斑の事実を知りながら、製品に問題があるかどうかを十分に確認せずリコールしなかった点です。
最新の情報では、カネボウは、昨年10月の時点で皮膚科医から白斑のトラブル2件について指摘を受けていたがそれを見逃していたと、同社夏坂社長が消費者庁 阿南長官に報告しています。*2
当初リコールが発覚した時点では、最初に同社が白斑を認知したのは今年の5月前後と発表していました。しかし、その後の調査により、更に時期がさかのぼってしまったのです。
対象商品が最初に発売されたのは2008年3月。1年間で87万個以上も売れている商品だけに、もっと早くリコールして消費者に情報が届いていたら被害も少なく食い止められました。ここに、メーカーとしてのリスク管理と危機意識、社内での自社に対する批判的思考の不足が露呈してしまったと言えます。
*1 カネボウ 8月19日付報道発表資料より。
*2 消費者庁 平成25年8月9日阿南長官記者会見要旨より。
暮らしの中のリコールと事故、実はこんなにたくさん発生しています!
意外と知られていませんが、実はリコールは日々発生しています。
平成24年度の年間リコール件数
食品 920件 *3 自動車 308件*4
その他の工業製品 2007年度 193件*5
リコールの主な理由については、食品は表示の記載漏れや異物混入など、自動車・家電品や日用品等々の工業製品は製品の不具合やトラブルの発生などです。
また、参考までに、平成24年度1年間で消費者庁に報告された、食品・自動車以外の消費生活用の工業製品での重大事故(身体や生命に大きな被害を及ぼすような事故)の件数は、1,077件に上ります。この中には、例えばエアコンや電気洗濯機・石油ファンヒーターなど製品の不具合による発煙・発火、自転車のチャイルドシートの落下なども含まれています。*6
リコールは、こうした事故が発生して初めて対応が始まるケースも少なくありません。リコール製品が場合によっては身体に重大な影響を与え、最悪は死亡事故につながる可能性を考えると、事故にあってから「リコールされていたのを知らなかった…」では済まされません。
事業者はもっと消費者にきちんとリコール情報が届くよう工夫する必要があります。と同時に、消費者も自分の身を守るために、リコール情報のチェックをすることが求められています。
*3 独立行政法人農林水産消費安全技術センター 食品の自主回収情報 年度別月別収集件数より。
*4 国土交通省 平成24年度のリコール届出件数及び対象数について(速報値)より。
*5 経済産業省 2008年度ものづくり白書より。
*6 消費者庁 平成25年版消費者白書より。
「伝わる情報」の重要性を認識させられた、松下電器産業リコール事件
2005年、製品事故と消費者に関する大きな事件が起きました。
その年の1月、長野県内のペンションで、松下電器産業株式会社(現在はパナソニック株式会社)のFF式石油温風機の欠陥により、小学生の男の子が死亡。その父親も重体となりました。そしてその後も、次々と同様の死亡・重症事故が発生したのです。記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。
実は、松下電器産業は、その死亡事故を発生後の早い段階で認知していました。
しかし、「原因確認中」などを理由にリコール実施が遅れ、数人が亡くなってしまった後の4月にようやくリコールを公表。当初のリコール社告は「お詫びとお知らせ」程度のインパクトが薄い表現だったため、その情報が消費者に伝わらず、リコール後も死亡事故が続発したのです。
こうした同社のあまりにも後手に回っている状況に、経済産業省はその年の11月、松下電器産業に対して、消費生活用製品安全法第82条の規程に基づく製品の回収、点検および改修、危険性の周知等必要な措置をとるべき旨の緊急命令を発動しました。これは従来にない異例の厳しい命令で、その結果国内史上初めてのテレビCMによるリコール社告が行われたのです。
この緊急命令の中には、消費者に危険性がきちんと伝わる表現にすることも指示されていました。そこで同社は、タイトルに「死亡事故に至るおそれがある」と明記したのです。当時の社告としては画期的でした。
どの企業でも、自社のネガティブイメージになる情報は出来ればあまり前に出したくないものです。しかし、この時の松下電器産業は、社長自ら消費者に対して危険性や状況の説明を行い、また社告で一番目につくタイトル部分に、お詫び文ではなく「自社の製品で死ぬかもしれない」と明記したのでした。
その表記が功を奏し、この一件の周知度は向上。死亡事故の発生は抑制され、同社はその後、このリコール対応によって消費者から逆に信頼されるようになり、社告自体は今でも高い評価を受けています。
#同商品は現在もリコール継続中です。→パナソニック株式会社
リコール情報は、「具体的に」「早く」きちんと伝えましょう!
リコールは、究極のクレーム対応です。しかも、場合によって重大事故にまで発展します。
消費者として一番知りたいのは、そのリコール商品が自分にとってどんな影響を及ぼすのかであり、それは絶対に知らされるべき内容です。
例えば、食品の原材料名表示で小麦粉を載せていなかったとします。その場合のリコール社告のタイトルは、「お詫びとお知らせ」で良いでしょうか。
小麦アレルギーの方がもし気づかないでそのまま食べてしまったら、場合によっては調布市の小学生の死亡事故のようなアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があります。そうした事故を引き起こさないためには、社告のタイトルに、目立つように「小麦アレルギーをお持ちの方は食べないでください」と書くべきでしょう。
また、事実が発覚してからリコールするまでのスピード感も重要です。
たとえ原因調査中だとしても、早い段階で消費者へ情報を提供すれば、少なくとも消費者の被害を最小限に食い止めることができます。
このような決断は、一時的に企業としてマイナスイメージになるため、自社の損失を考えると難しいかもしれません。
しかし、そのわかりやすさと潔さが企業としての社会的責任を果たすことになり、松下電器産業の事例のようにリコール後に信頼を回復して「持続して消費者に選ばれる」企業になるチャンスであることを考えれば、選択の余地はないはずです。
リコール社告を時々チェックして、信頼できる企業を選びましょう!
以前のコラムでもお伝えしましたが、消費者の権利は保障されなければなりません。特にリコールに関しては、次の4つが重要です。
・必要な情報が提供される権利→その不具合等で身体にどんな影響があるのかなど。
・安全が確保される権利→「ただちに使用を中止してください。」など、危険度に合わせた明確な表現。
・適切な選択を行える権利→消費者がどのように対処したらよいかがわかりやすいこと。
・被害が救済される権利→相談・保障、回収・修理などの体制の充実。
いくら有名な企業であっても、その企業が消費者にとって本当に信頼できるかは別問題です。
もしあなたが購入した商品でトラブルが発生した時に、消費者目線をきちんと理解して対処できるかどうか。
リコール社告に上記の4点が消費者に伝わる形で表現されているかを確認することで、その企業の消費者志向を垣間見ることができます。
[企業のリコール社告の確認するには?]
1 新聞の社告欄をチェックする。
2 リコール情報サイトを利用して対象企業ホームページを訪問し、どれだけわかりやすいかを確認する。
・消費者庁 リコール情報サイト
・独立行政法人国民生活センター「回収・修理等の情報」
・リコールプラス
今回のカネボウのリコール問題について、同社のホームページ社告を、その対応に追われている消費者庁のホームページと前述のパナソニックの社告と合わせてぜひ比較チェックしてみてください。
・カネボウ化粧品
・消費者庁 トップページ、7月4日公表資料
・パナソニック株式会社
それぞれの組織が抱えている危機感の違い、消費者へ何を伝えるべきか、どうやったら消費者にきちんと認識してもらえるか、その組織全体としての消費者志向や考え方が見えてくるはずです。そして、これだけ白斑の被害が拡大したのは、ある意味カネボウの消費者志向に欠けた企業体質により、起こるべくして拡大したと言えるのではないでしょうか。
企業の商品を選んで買うこと、それは消費者がその企業に利益を与えて、企業の存続を応援することです。
幸せな社会で暮らすために、本当に社会に存続してほしい信頼できる企業にお金を支払うことは大切な消費者の権利と義務です。
そのために、私たちも消費者としてのたしかな目を養うことが今求められています。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
このコラムの執筆専門家
- 池見 浩
- (東京都 / 消費生活アドバイザー)
- 消費者考動研究所 代表
消費生活の専門家が消費者教育・啓発や消費者志向経営をサポート
消費生活アドバイザーは、消費者・企業・行政の懸け橋として、法律、生活知識、消費者志向経営や環境問題まで幅広い専門知識を持つ消費生活の専門家です。企業・自治体等で培った豊富な実務経験とノウハウで、貴方の消費者力UPと企業活動をサポートします。
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