- 村田 英幸
- 村田法律事務所 弁護士
- 東京都
- 弁護士
対象:民事家事・生活トラブル
- 榎本 純子
- (行政書士)
就業規則の不利益変更
労働契約法10条では、就業規則の変更について、以下の要素を考慮すべきとしている。
そのもととなった最高裁判例をあわせて考えると、以下のとおり整理できる。
①就業規則の変更によって労働者の受ける不利益の程度
②労働条件の変更の必要性
使用者の就業規則の変更の必要性の内容・程度
③変更後の就業規則の内容の相当性
・変更後の就業規則の内容自体の相当性
・代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
・同種事項に対する我が国社会における一般的状況(私見ではあるが、法令の改正に合わせて就業規則を変更する場合には、合理性が肯定されやすいと思われる。)
④労働組合等との交渉の状況
・労働組合、または、労働者の過半数以上を代表する者との交渉の経緯
・他の労働組合、または、他の労働者の対応
⑤その他の就業規則の変更に係る事情
・賃金に対する就業規則の変更
最判昭和63・2・16大曲市農協組合事件で、合理性を肯定。
合併後の退職金の支給の減額であるが、退職金算定の基礎となる給与の額自体は、合併により、通常の昇給を超えて、むしろ増額されていると認定されている。
最判平成9・2・28第四銀行事件で、合理性を肯定。
最判平成12・9・7みちのく銀行事件で、合理性を否定する方向で差し戻し。第四銀行事件と、みちのく銀行事件で、類似の事案でありながら、結論が分かれた。
しかし、第四銀行事件では、労働者の不利益の程度が、55歳定年制を取っていたところ、58歳までの3年間の賃金の減少額が約943万円となるが、定年延長により、受給賃金総額では約8%増加している。
みちのく銀行事件では、賃金の削減率が約3割~5割であり、削減額も1人当たり3年4か月~5年間で、約1250万円~2020万円。不利益が重大であるのに、みるべき代償措置がない。ただし、変更後の労働者の賃金額は約420万円~530万円であると認定されており、60歳定年制のもとで年功序列賃金制度を取っていたため、55歳以上の行員について、賃金削減の「高度の経営上の必要性」があったと会社側は主張していた。
みちのく銀行事件について、今日のような銀行間競争の下では、賃金額も高額と判示している言えないが平均水準程度であるし、競争激化の時流に照らせば、賃金体系の改善は、ある意味当然ではなかったという疑問の余地がある。
ただし、一定の年齢層だけを狙い撃ちにしたやり方では、就業規則の変更の合理性を肯定できなかったのかもしれない。
逆に言えば、従業員全体について、賃金額を広く薄く削減する方法であれば、変更の合理性を肯定されていたのではないかと思われる。
また、「経営上の高度の必要性」について、「経営破綻の危機に瀕している場合」であれば、失業・倒産や賃金不払いよりも、一定の賃金削減のほうが、就業規則の変更の合理性を肯定しやすいであろう。
・退職金
最判昭和58・7・15御国ハイヤー事件で、合理性を否定。
最判平成8・3・26朝日火災海上保険事件で、合理性を否定。
・労働時間
最判平成12・9・12羽後銀行(北都銀行)事件で、合理性を肯定。
最判平成12・9・22函館信用金庫事件で、合理性を肯定。
いずれも、完全週休2日制の実施に伴い、平日の所定労働時間を延長した事案である。
完全週休2日制(労働時間短縮)は労働基準法の改正によるものであり、不利益変更の内容が労働基準法の基準を満たしていたことから、合理性が肯定されたのは、ある意味当然である。なお、労働時間短縮により、時間外手当をもらえなくなる不利益があると労働者は主張したが、残業を命じるかは使用者の裁量だから、従前もらえていた時間外手当は当然の権利(既得権)ではないとされている。
最判昭和58・11・25では、生理休暇についての就業規則変更の合理性を肯定しているが、労働基準法の休暇に関する規定の改正に伴うものと思われ、その意味で、就業規則の内容が労働基準法よりも手厚い場合に、労働基準法改正に合わせて就業規則を変更しても、合理性を肯定されると思われる。
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