取締役の「従業員(労働者)」性 - 民事事件 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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取締役の「従業員(労働者)」性

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「労働者」性の論点、取締役の場合

 

 労働契約(労働基準法9条、労働契約法2条1項)は、民法621条の「雇用」とほぼ同義であり、以下の特徴がある。

使用者の指揮監督下において

労務を提供して(労務の提供自体が債務の内容(手段債務)であり、仕事の完成(請負)や事務処理そのもの(準委任)とは異なる。)

賃金(対価)を得る

 

このように、使用者に対する従属性という特性がある。

取締役は会社と、委任の関係(会社法330条、民法643条)にある。

 

判例

 最判平成729 「専務取締役」の名称で業務執行を行っていた合資会社の有限責任社員を従業員と認めた。

 

取締役就任の経緯

・従業員から取締役に就任した場合

取締役就任時に従業員の退職手続(従業員としての退職届の有無、社会保険の手続の有無)

退職金支給の有無

会社における従来の立場

・当初から取締役である場合

労働者性を否定する方向へ働く。

 

取締役としての権限(代表権、業務執行権)

・会社法上の業務執行権の有無

代表取締役(取締役設置会社は会社法363条1項1号、取締役会非設置会社は会社法349条)であることは、労働者性を否定する方向へ働く。

業務執行権(取締役会設置会社は会社法363条1項2号、取締役会非設置会社は会社法348条)

・名称

「会長、社長、副社長」の場合には、労働者性を否定する方向へ働く。

「専務、常務」「部長」の場合には、大規模な会社で職制として定められている場合には、労働者性を否定する方向へ働くが(ただし、大規模な会社でも、単に名目的なもので、部下を持たない場合もある。)、定款や就業規則や職制上定められたものではない場合・単に自称しているに過ぎない場合・取締役会非設置会社・小規模な会社では、労働者性を否定する方向へ働くとは限らない。

「支店長、支配人」は、商業登記されている場合には、会社法上、一定事項について、会社につき代表権がある。ただし、「支配人」は、会社法では、「使用人」とされていることは明らか。

「工場長」、 最判昭和

「店長」は、一概に労働者性を否定する方向へ働くとは言えない。

 

・取締役としての業務遂行の有無・職務内容

取締役会や株主総会の開催の有無、それらへの出席の有無、

役付き取締役としての業務執行の有無

会社の経営や意思決定への関与

 

・代表取締役からの指揮監督の有無・内容

裁判例は、従業員としての指揮監督か、それとも、会社運営の一環であるかの区別している。

 

・他の従業員への指揮監督の有無

 

 

「使用者の指揮監督下における労務提供」

・使用者の仕事以外の仕事に従事することの有無

使用者の仕事以外に従事できることは、労働者性を否定する方向へ働く。

・時間、場所的な拘束の有無

管理監督者(労働基準法41条2号)に該当する場合、労働時間制度・割増賃金の除外されている(労働基準法第4章、第6章、第6章の2)。

時間的・場所的に拘束されている場合には、労働者性を肯定する方向へ働く。

また、労務を提供する時間が管理されている場合には、労働者性を肯定する方向へ働くが、労働基準法で事業場外のみなし労働時間制などの例外もあり、一概には言えない。

 

・労務提供の代替性の有無(交代、補助者使用の可否など)

自らの判断や計算で補助者を使用することができる場合には、労働者性を否定する方向へ働く。

 

・提供する労務の内容

他の従業員と同様の労務であれば、労働者性を肯定する方向へ働くが、小規模な会社の場合には、一概には断定できない。

 

「報酬の労務対価性」

・報酬の額、内容、計算方法、支払方法

労働時間に応じた対価が支払われ、残業代・割増賃金のように労働基準法にそった計算方法が採用されている場合には、労働者性を肯定する方向へ働くが、割増賃金の例外として管理監督者などもある。あるいは、近時の残業代未払い紛争のように、割増賃金を支払わないからといって、労働者性を否定する方向へ働くとは限らない。

勤務時間にかかわりなく毎月定額の場合、労働者性を否定する方向へ働く。

賃金として税務上や決算上会計処理されている場合、従業員としての賃金部分と役員報酬の部分が区別されている場合、他の従業員と比較して高額ではない場合、労働者性を肯定する方向へ働く。

役員報酬として税務上や決算上処理されている場合、役員報酬としてだけ支給され諸手当が支給されていない場合、額が他の従業員と比較して高額な場合には、労働者性を否定する方向へ働く。

 

・労働保険や社会保険(雇用保険、厚生年金保険、健康保険)の保険料の徴収の有無

近時は、社会保険について、平取締役(代表取締役除く)の任意加入制度が設けられたので、加入していても、一概に労働者性を肯定する方向へ働くとは限らない。

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