小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ時代とともに「マナー」は変わる
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以前目にした記事に、「請求書のハンコがお辞儀をしていないのは失礼だ」と、早朝から怒りの電話がかかってきたというものがありました。
「ハンコのお辞儀」と言っているのは、一部の金融機関などでおこなわれていると言われるビジネスマナーで、一つの文書に複数の印鑑を押すときに、左端の上司の印にお辞儀をするように、部下が左斜めに傾けて押すことです。
この話に対して、「そんなマナーは初耳」「まっすぐ押せと教わった」などの声が多いですが、「聞いたことはあるが実行したことはない」など、どうもマナーとして存在するらしいという話もあります。
私自身はそんな書類を見たことも、自分で実行したこともありませんが、話は聞いたことがあるので、それをマナーと位置付けている人は、確かにいるのでしょう。
マナーの形はいろいろありますが、私は「相手を不快な気持ちにさせないこと」が基本だと思っています。それが達成されれば表現方法は何でもよいと思いますが、この記事では相手から激怒されたということなので、理不尽とは思うものの相手は不快な気持ちになっています。マナーは本当に難しいと思います。
このところ、いろいろなマナーに関する議論があります。
「エスカレーターの乗り方」で、最近は急ぐ人のための片側空けは止めるように、主に鉄道会社がアナウンスを始めています。歩くと危険なことが一番の理由のようですが、全員が立ち止まって乗った方が、全体の運搬効率が良いということもあるそうです。
このマナーも、ある時期から「急ぐ人のために」といって徐々に広まった記憶がありますが、それ以前は「危ないから歩くな」と言っていたと思うので、結局は何を優先するのかの違いという気がします。
メール添付でファイルを送るときに、「圧縮してパスワードをつけて、そのパスワードは別のメールで送る」というマナーがあります。理由はたぶん情報漏えいやセキュリティの対策です。
私は相手のやり方に合わせたり、様子がわからない時には、相手にどうするか確認したりしますが、聞くところでは、それによってセキュリティが高まることはほとんどないらしく、そうだとすればただの無駄ということになります。
誰が考えて、どう広まっていったのか、ちょっと謎が多いマナーの一つです。
「何でも電話は失礼」という話をはじめとした、電話に関するマナー論争があります。最近の若手社員は、なかなか電話に出ないので仕事にならないと、お怒りの先輩諸氏の声を聞きますが、私自身はこちらの都合に関係なくかかってくる電話が不快に感じてしまうので、どちらかと言えば若手社員寄りの感覚です。
そもそも携帯電話がない頃は、必ず誰かが電話を取り次いでいて、それがバッファとなって居留守や後回しも含めた応対で調整していましたし、外出していれば連絡が取れないものと、相手もあきらめてくれていましたが、今はそのバッファやあきらめが無くなってしまったので、新たなマナーの問題になっているのでしょう。
かつては、急な休みの連絡など、大事なことは必ず電話するようにと言われていましたが、最近はラインなどを使う会社もあり、連絡ツールが増えたことでずいぶん様子が変わってきています。この使い分けのマナーはそれぞれの会社次第で、まだ確立はしていないように思います。
私自身のマナー知識は、新人研修などで、ごく一般的なものを少しレクチャーする程度のものですが、一つ言いたいのは、マナーはこれほど多様で、自分の信じているものがすべてではなく、さらに時代とともに変わっていくということです。
「相手を不快な気持ちにさせないこと」という基本は変わりませんが、自分のマナー感覚を相手に一方的に押し付けるのは、それが間違っていたり不適切だったりすることがあり得ます。その点だけは十分に気をつけなければならないと感じています。
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