小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「副業」を認めたくない会社の言い分に思うこと
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雇用環境や経済状況の様々な変化の中で、社員の副業を認めていこうという流れが始まり、実際に認めている会社もずいぶん増えてきています。
ある調査によれば、社外での副業、兼業を認めている企業の割合は50%を超えており、ここ数年で一気に進んだ感じがします。
その一方、検討していない、認める予定はないという企業も30%ほどあり、社員の副業には否定的な考えを持っていて、以前と同じく禁止したままという会社も目にします。
まだ世の中一般が副業に前向きではない頃の話ですが、マイナンバーの導入にからんで、会社に内緒の副業がばれるというようなことで、その防止方法をレクチャーするような記事を目にしたことがあります。当時は「副業禁止」が大多数だったゆえに出てきた話ですが、まだまだに多様な価値観の会社もあると思われます。
そもそもの話として、社員の副業がなぜ好ましくないとされるのか、少し調べてみた中で出てきた理由には、以下のようなものがありました。
・会社の情報やノウハウを漏えいさせないため
・会社の資産を使って個人に金儲けをさせないため
・社員には自社の仕事に集中してもらうため
・副業を手掛けると会社への帰属意識に差し支えるため
・副業で疲れがたまると本業に差し支えるため
・副業を通じた評判などが、本業に悪影響を与えないようにするため
・就業時間中に副業されるのを防ぐため
などなど。
理屈としてはもっともな感じがしますし、これを見ても特に疑問を持たない人も多いかもしれません。
ただ、これを私のようなコンサルタントという第三者の立場でみていくと、例えば「本業に集中できない」は、何も副業に限ったことではありません。趣味や非営利の社外活動でもあり得るでしょうし、私生活上の問題などが、同じく仕事に集中できない原因となることはあるでしょう。
一番正当な理由と思える「情報漏えいや流出」「会社の資産を利用した金儲け」については、もちろんその懸念はありますが、実際問題として今在職している会社の資産や情報を、同一人物が本業と副業の同時並行で使うのは、結構はドルが高いことです。それなりに情報管理する仕組みはありますし、周囲からの目もあります。また副業や兼業での関係先も確実に違和感を持つでしょう。
懸念があるとすれば、副業よりも自分の退職後など、会社から身を遠ざけた上で行われる可能性の方が高いように思います。
さらに、「帰属意識」「疲労」「自社の評判」などとなってくると、これはもう自社以外の仕事を行うことに対する単なる嫉妬のように思えてきます。
過去にさかのぼれば、企業が社員の副業を禁止することには、それなりの説得力があったかもしれません。終身雇用が前提で、給与も年齢に応じてそれなりに上がっていきます。副業禁止は「会社はあなたの面倒を最後まで見るので、そのかわりに変な浮気はせず、会社に一途に向き合いなさい」ということだったでしょう。
ただ、残念ながら今はもうそういう時代ではありません。会社に一途に向き合っていた人が、ある日突然仕事を失うかもしれません。一途であった人ほど他への転換ができず、収入を得る手段がなくなってしまいます。
最近は共稼ぎ家庭も多いですが、女性の社会進出という理由だけでなく、一人の稼ぎだけで家計を維持するのが難しいことや、働き手が複数いれば何かあった時のリスクヘッジになるということもあるでしょう。
今の時代に会社が「副業禁止」を言うことは、社員が生活を維持していく選択肢を奪っているとみることもできます。社員の面倒を自社ですべて最後まで見る気がないにもかかわらず、副業も禁止するとなると話のつじつまが合いません。
すべて野放しにするわけにはいかないかもしれませんが、将来の保証をせずに、昔からの慣習のままで「副業禁止」を言うのは、私は少し一方的すぎるように思います。
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