
小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「日本人の有休消化が進まない理由」を聞いて思ったこと
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あるサイトに、「日本人の有給休暇消化率が低い理由」という記事がありました。
それによると、「有給休暇取得に罪悪感を持つ人の割合」というデータがあり、調査対象の国の中で、日本は58%というトップの数字で、2位の韓国は55%と日本に近い傾向でしたが、3位のシンガポールは42%で、それ以下はすべて4割を切っていたそうです。
罪悪感を持つ理由としては、1位が「人手不足」、2位は「緊急時にとっておく」、3位は「仕事をする気がないと思われたくない」だったそうです。「人手不足」という理由は、自分のせいで他の人に仕事のしわ寄せがいくため、罪悪感を持つのもわかる気がしますが、その他の理由は、裏を返せば休む気がないともいえる気がします。
調査では「休み不足と感じている人の割合」も聞いており、日本は53%と下から4番目に少ない数値だったそうです。休みを取れていないのに休みを欲していないということで、その裏付けとなりそうなデータです。とにかく仕事中心で回っていて、オンとオフの切り替えが苦手といえそうです。
この記事によると、有給休暇消化率が極めて高いドイツでは、第2次大戦中で激戦のさなかのドイツ軍でも、休暇取得制度がしっかり維持されていたそうです。
ドイツではこういう国民性、メンタリティーが根付いており、対して日本の場合は、ただトップダウンで容易に進展するような話ではなく、まずは一人ひとりが自らの意識改革を行いながら、無理なくできることをやっていくしかないだろうとまとめられていました。
この「有休消化」と「罪悪感」ということをつなげて考えると、私の経験上でも思い当たることがあります。
それは常に仕事が忙しくて休むことが難しそうな会社でも、有給休暇を毎年必ず使い切ってしまう人がおり、その一方どんなに暇な時期が続いていても、有給休暇を消化せずにひたすら毎日仕事をするような人がいることです。
ここでの「罪悪感」の感じ方には、わりと大きな個人差があります。
相当に忙しくて、休むことに「罪悪感」を持ってしまいそうな状況でも平気で休む人はいますし、反対にどんなに罪悪感を持たずに済む状況を作り出したとしても、休まない人は絶対に休みません。そして日本では、平気で休むようなタイプの人は圧倒的に少なく、「罪悪感」を感じやすい様子が見られます。
近年では、有給休暇の消化率はずいぶん向上してきたように見られますが、ここ最近はコロナ禍で在宅勤務が増え、その中では休暇取得がしにくくなったという声を聞きます。家でも仕事をするという環境で、仕事と休みの区別をしづらくなったということがあるでしょう。そこでは「罪悪感」という要素も大きい感じがします。
有給休暇の消化率を上げようと考えたとき、「罪悪感」に代表されるような個人のメンタリティーを変えていく必要があるのは確かです。
ただ、メンタリティーを変えるには、本人の意識だけでなく、周りからの刺激で変わることもあります。はじめは「強制されてイヤイヤ」「やむを得ないから」という気持ちでも、それが続くと自分のペースが変化し、やがてその状態に慣れていきます。
そう考えると、会社全体の決めごとにしたり、上司からの指示で強制的に休ませたりするなど、トップダウンの施策で刺激することも決して無意味ではありません。有休消化は当たり前という雰囲気作りにもつながるでしょう。
メンタリティーを変えるのは簡単ではなく、日本人は保守的で変わることを好まないという国民性もあります。しかし強制的に変えられると、それに合わせていく順応性も高いです。
有休消化に限らず、組織変革というのは、個人の意識改革と合わせて、周りからの働きかけや雰囲気作りという面も、また重要なところではないかと感じます。
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