小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「通勤手当」と「職住接近」の話
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あるブログ記事で、「通勤手当なんて廃止すべき」というものがありました。
会社が通勤手当を支給するということは、「“本来の仕事”と“通勤電車に乗るという仕事”の抱き合わせ販売だ」との主張で、通勤手当を廃止すれば、近い住居を選択する人が増え、朝から疲れて出社する人が減り、「全員が得することを意味します」とのことです。
私がいろいろな企業経営者とお話しする中でも、この「通勤手当」が話題になることは意外に多いです。特に所在地が首都圏の会社は、遠距離通勤の社員も多いので、問題意識も高いように思います。
通勤手当は、人による金額差が意外に大きく、徒歩や自転車なのでもらわないという人から、安い人で月数千円、逆に高い人は月10万円以上という人もいます。地方に行けば車通勤が多くなりますが、こちらも費用は支給されます。
たくさん支給されていても、それを交通費として使っているので、決して自分で貯めこんでいる訳ではありません。しかし、会社の立場からすれば、それを給与として支払っていることには変わりありません。
特に中小企業では、給与原資が潤沢でないこともあり、仕事の能力や成果とは関係がなく、なおかつ結構高額になることもある「通勤手当」を、本音では「やめたい」、もしくは「その原資を能力や成果に関係する他の名目で分配したい」と考えていることが多いです。まさにこの「通勤手当廃止論」に近いところです。
一方で、特に遠距離通勤をしている社員にとって、通勤手当が廃止されてしまうことは死活問題です。会社の事業所移転や家庭の事情など、必ずしも自分の意志だけで遠距離通勤をしている訳ではない人もいますし、何よりも多くの会社で既得権として定着している制度ですから、そう簡単に廃止とはいきません。
そもそも「通勤手当」の発祥を調べてみると、どうも大正初期から、すでにその名目での賃金支給があったようです。初めは労働力不足による人員確保策の一環だったらしいです。
戦中戦後の貧しい時期には、生活給を補てんする物だったり、さらにその後は長期雇用をしやすくする、勤務地の異動を円滑に行うといった施策の一環であったり、高度成長期にはマイホームがどんどん郊外へと離れて通勤時間が長い社員が増え、それを支援しようということもあったようです。いろいろな経緯があっての今ということです。
このように、それなりの歴史的経緯があることを考えると、単純に「通勤手当」を廃止するのは、ちょっと難しそうです。
また、人がその土地に住むには多くの理由があります。通勤手当が廃止されたからといって、簡単に「では会社の近くに引っ越そう」とはならないでしょう。
ただ、そうは言っても遠距離通勤は問題です。
実際に見ていて、やはり遠距離通勤の人は疲れていますし、日本の労働生産性が低い一因として、通勤時間を含めた拘束時間が諸外国よりもかなり長いため、それが働く人から活力を奪っているという話を聞いたことがあります。
「通勤手当廃止」だけでなく、「職住接近」を支援する施策として、ある有名IT企業が打ち出した「2駅ルール」は、会社から2駅以内の賃貸物件に住めば、家賃補助がもらえる制度ですが、社員はトータルの拘束時間が減ってリフレッシュができ、会社の費用負担は、通勤交通費やタクシー代と比較しても、あまり変わらずに実施できているとのことです。
通勤時間の負担が活力を奪っているのは確かで、その解決のための「通勤手当廃止論」には一理あると思います。しかし、現実的には「近隣居住にインセンティブを与える」など、他の施策や制度も組み合わせないと、なかなか実現は難しいでしょう。
「在宅勤務」「サテライトオフィス」といった施策との組み合わせで、負荷軽減を図る動きも増えています。
職住接近が実現できている地方都市の様子を見ていると、働く人の時間の余裕が違います。都市部では導入が進められる「在宅勤務」も、地方では事業継続の視点が中心で、社員側からやりたいというニーズはほとんどありません。
このように、その会社の環境によって大きく事情は違います。ただ、これからも考え続けなければならないテーマであることは確かです。
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