小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「新しいチャレンジ」に尻込みするのは“本能に反しているから”という話
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いろいろな企業のリーダー、マネージャー、経営者の方々からお話をうかがっていると、「新しい事業モデルの開発」「新たな分野への挑戦」「現状打破」「変革」といったキーワードが出てくることが多いです。
今いる場所に安住していては、発展が望めないどころか、現状維持も危ういといい、「新しいこと」「挑戦すること」ができる人材が必要だといいます。変化のスピードが速いことを考えると、生き残りへの危機感を持つのは当然でしょう。
しかし、そんなに「新しいこと」「挑戦すること」ができる人材は、それほど多くはありません。何とか育てたいが、なかなか思うように育たないとか、そもそも素質がある人材がいないなどと言い、組織を率いる立場の人は、みんなそのあたりを一様に嘆きます。
ただ、人間の生き物としての本能という点で考えると、「挑戦しない」というのは、ごく当然のことだそうです。
そもそも、生物が生命を維持して子孫を残すという意味では、「生き残る」ということを最優先して考えます。決して余計な冒険などをせず、危険からはできるだけ身を遠ざけ、確立された確実な方法で食料を得て、堅実に毎日同じことをしながら生きていくことが、生き残れる確率が高くなります。
そんな大多数の安定志向の中にも、新しいことを試そうという志向の少数の人がいます。中には命を落とすようなこともありながら、新たな試みがうまくいくことがあり、それがその他大勢の安定志向の人たちが生き延びる糧になっていきます。
もしも大多数の人がチャレンジ志向であったとしたら、リスクの高くて種として生き残れる確率が低くなってしまうので、人間が生き残る本能としての安定志向だそうです。
こう考えれば、「新しいこと」「挑戦すること」ができる人材というのは、少数しか存在しないのは当然であり、リーダー、マネージャー、経営者という人たちは、どちらかと言えばこの少数派に属することになります。
もしかすると、そういう立場でも安定志向に属する人の方が多いのかもしれませんが、それは生き物として当然だということです。
今のビジネスで、「挑戦する人材」「変革人材」が重要なことは間違いありません。ただし、それが「生き物の本能」として、多数派にならないということは、認識しておかなければなりません。
こういう中で、人材育成として考えられる取り組みは二つあり、まずは新しい物が好きで、冒険をいとわない志向の人材を見極めて、その人たち中心に変革の役割を与えること、もう一つは、その他大勢の安定志向の人たちが感じる「安全」と「危険」の境目を少しずつずらすように仕向けることです。
前者で重要なのは「適正な人材を選ぶ」ということ、後者では「経験をさせる」ということが重要になります。
特に後者について、大勢の人は、道筋さえ見えればそこについて歩こうとしますが、例えばその道が舗装されていない、砂利道の林道でも大丈夫という経験をすれば、「安全」と「危険」の境目は少し変わります。いきなり切り開くことは難しくても、少しだけ違うことは受け入れられます。
「変革人材」のように新しいことをする人は、人間の本能として少数派であるという前提で、育成を考える必要があります。
さらに、多くの人は、少しずつであれば「挑戦ができること」も、理解しておかなければなりません。
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