小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「全体を見ているつもり」の無意識による勘違い
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たまたまあるホテルの宴会場に立ち寄った時のことです。
たぶんどこかのクラス会か何かの集まりだと思いますが、「○○の傘寿の会」という看板を見かけました。
傘寿と言えば80歳のお祝いのことですが、ふと会場をのぞくと、100名近い人が会場に詰めかけています。皆さんお元気そうで、とても80歳とは見えない人もたくさんいらっしゃいます。
私と同行していた人がそんな様子を見て一言、「最近のお年寄りは80歳でもみんな元気だね!」と言い、私もなるほどそうだと思っていました。
ただ、このことを後から考えてみると、そもそもそんな会に参加できるお年寄りは、自分一人でも出歩くことができる健康な人が大半であるはずです。もしも体調が悪かったり持病があったりする人が、そこの参加者の何倍もいるとしたら、必ずしも「今どきのお年寄りはお元気だ」とは言えません。
ただ、「みんなお元気だ」の言葉に違和感を持たなかったのは、様々なメディア情報や自分の実体験を含めて、「最近は年齢の割に元気で活動的な人が増えている」という先入観があったからです。
自分が実際に触れ合う人や街中の様子では、まさにお元気なお年寄りが大半ですが、これは私が出会う人たちが、たまたま元気な人ばかりに偏っているという可能性があります。本当に全体を見ることができていて、状況を正しく把握できているのかは何とも言えません。
こんなことからあらためて思ったのは、よくリーダーは「全体を俯瞰してみる目(鳥の目)」が必要だと言われますが、これは相当に意識をしていないと難しいということです。
やはり人間は、私も含めて自分が実際に体験したことが、心に強く印象付けられます。しかし自分が体験できる範囲のことには、おのずと偏りが出て来ます。
自分が直接かかわるのは、自分にとって興味あることや好きなことがほとんどですし、付き合う相手もそれなりに気が合う人であることが多いです。
メディアが発信する情報や、書籍に書いてあることなども、印象に残るのは自分が共感したこと、なるほどと思ったことですが、これも触れ合う情報を自分が選択しているということでは、偏っている可能性があります。
そうやって印象に残りやすく、なおかつ偏りがちな自分の体験をもとに「俯瞰」しているとしたら、それはそもそも「俯瞰」ではありません。
自分が興味ない情報であってもアンテナを張る、自分と気が合わない人とでもそれなりに付き合う、面白そうとは思えない本も読む、自分とは興味の範囲や意見が違う人を身近に置くなど、かなり意識をしないと、本当の意味で「全体を見る」ということはできません。
ただ、自分が苦手なことや興味を持てないことに取り組むのは、自分の努力だけではなかなかできることではありません。「全体を見る」ための現実的な方法は、そんなところをカバーしてくれる、自分とはちょっと違うタイプのパートナーやアドバイザーに近くにいてもらうことが、一番良いように思います。
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