職場の「コミュニケーション量」には物理的な環境も関係するという話
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ある会社で、現状の課題として「社内コミュニケーションの不足」という話が出てきました。どんな会社でも、何かしらの課題があることが多い部分です。
これから社員の皆さんと一緒に今後の施策を考えるということで、その認識を合わせる一環として、私も社内の様子を見学させて頂きました。
そこで見た会社の作業環境は、日本の会社にしては珍しく、一人一人の席がブースの形で囲われていました。立ち上がればすぐに周りが見渡せる程度の仕切りですが、一度自分の席に座ると、他の人は一切視界に入らなくなります。
この会社では、仕事中の私語を特に禁止するようなルールはありませんが、社内は非常に静かで、パソコンのキーボードを打つ音だけが聞こえてきます。
作業に集中できる環境であることは間違いありませんが、誰かと会話するには、すぐ近くの席にいる人との間でも、立ち上がって声をかけなければなりません。そうなると、自席で雑談を交わすことなどはほとんどありません。
作業場所とは別にリフレッシュスペースがあるので、休憩やちょっとした会話はすることができますが、業務時間中にわざわざ誘い合って休憩しに行くのも、何となく抵抗がありますし、仕事中に雑談を勧めることもできません。
しかし、会社としては「コミュニケーション不足が問題」と言っていますから、そこに問題は確実にあるはずで、それには質と量の両面があるはずです。そして、特に社員間のコミュニケーション量については、この作業環境が影響しているのは間違いがありません。
ただ、「社内コミュニケーションの不足」が解消するために、この作業環境を変えれば良いかというと、話はそれほど単純ではありません。
こちらの会社で個人ブースの作業環境を作ったのは、そもそも基本的な作業がそれぞれ個人の担当者ベースで進められるものが多いということから始まっており、社員が仕事をしやすい環境を考えていった結果として行きついたものです。
以前は一般的な会社のように、オープンな空間でそれぞれのデスクを並べていましたが、社員同士の私語が多いことや、作業中のディスプレイが周りにも見えてしまうというセキュリティ上の問題などがあり、その対策のために現在の形を取り入れたということです。
当初は作業効率が上がったという評価もあったようですが、今はそれが行き過ぎたことによる問題が起こっているということのようです。
この「社内コミュニケーションの不足」というような問題で、特にコミュニケーションの量に関する部分では、人の好き嫌いや話しやすさといった人間関係的なこととともに、物理的な環境が影響する割合が、意外に多いです。
例えば、コミュニケーションが必要な相手との物理的な距離が遠ければ遠いほど、その密度や頻度は薄くなりがちです。学生時代にクラス替えがあると、それまでいつも話していた親友と急に疎遠になるような経験をお持ちの方もいると思いますが、それと似たようなところがあります。
組織変更や部署異動でお互いの勤務地が変わるような場合はもちろん、居場所のフロアが変わったとか、席が離れたとか、それくらい小さな変わり方でもコミュニケーションの量は変わってしまいます。
また、たまたま共用電話の近くの席になり、電話応対をする機会が増えたために、社内の人と会話する機会が増えて、いつの間にか社内コミュニケーションの中心にいるようになったり、社員旅行で同部屋になったことをきっかけに面識ができて、その後仕事上の情報交換をするようになったりするなど、物理的な環境変化やお互いの距離間の変化が、コミュニケーションの量を増やすこともあります。
その後、この会社では、コミュニケーション改善の第一歩として、同じ部署に属して仕事上の関係がある10名程度のグループ毎に、お互いがやっている仕事内容や現状を共有することを目的に、1日おきに15分程度のミーティングを実施する活動を始めました。
ご存知の方もいると思いますが、接触の回数や頻度が多いほど親密度が増すという「ザイオンス効果」(別名で「単純接触の原理」)というものがあり、まずはそこから始めようということです。これもコミュニケーションの回数を重ねる場づくりと考えれば、物理的環境の一種ではないかと思います。
いずれにしても、「コミュニケーション不足」という課題には、大きなことから些細なことまで、いろいろな要素が複雑に絡み合っていることがほとんどです。
そこでは、「物理的環境」にも目を向けておく必要があると思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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