ある法事でうかがったお寺のご住職がお話になっていたことです。
ご住職は将棋が好きで、よく将棋を指すのだそうです。ただ、本当に弱くてなかなか勝てないそうです。
ある日も将棋を指していて、相変わらずのように負けてしまいました。対局後のお相手に、「やっぱり私なんかではかないません。お強いですね」と声をかけたところ、その人から返ってきた言葉は、「いや、私が強いのではなくあなたが弱すぎるんです」だったそうです。ご本人にとっては、とうとう言われてしまったという図星の言葉だったそうです。
さすがにショックで、その言葉に反応できずにいると、その人は続けて、「私もあなたとは大差が無いくらい弱いです。でも私の方が少しだけ自分の弱さを知っていて、それをカバーする術を知っていたということですね」と言われ、その言葉に少し救われる気がしたそうです。
ご住職は、「人間は自分の弱みを他人に見せるのは怖いから、それをできるだけ隠そうとする。人の上に立つ人ほど、余計にそういうところがある。しかし、自分の弱みに向き合ってその弱さを知り、場合によっては他人に頼ることができるのは、その人の強さになるのではないか」と思われたそうです。私も他人に頼るのが苦手なタイプですが、なるほどという感じがしました。
このお話から私なりに思ったのは、自分のレベルの「客観的な現在位置」を知るということの大切さです。
特に将棋のような一対一の勝負では、目の前の相手との「相対的な強さの争い」になります。仮にその相手に連戦連勝などとなれば、「自分は強い」「自分は優れている」などといううぬぼれが出てもおかしくはありません。
しかし、そういう狭い世界の勝ち負けだけで、自分のレベルがわかったつもりになっていても、実はその対戦レベルがものすごく低い可能性があります。ビジネスの中でいえば、特定のライバル会社との関係や、内輪の社員同士の競争などで起こりがちであるようなことです。
これを避けるためには、「いろいろな相手と勝負してみること」という方法しかないのだろうと思います。「相対的な力関係」を数多く積み重ねることで、徐々に自分の「客観的な現在位置」がわかってきます。そんな経験の積み重ねがあって初めて、自分の強さも弱さもわかってくるのではないかと思います。
ただ競争しろ、勝負しろと、一方的に煽るつもりはありませんが、「客観的な現在位置」を知れば、「自分の強さ・弱さ」もわかります。自分のレベルを知るために、幅広い世界での競争や勝負は、ある程度必要なことなのだろうと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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