従業員の退職金の減額・不支給 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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従業員の退職金の減額・不支給

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2 従業員の退職金の減額・不支給条項の有効性

 退職金は,就業規則において,定めをする場合にのみ記載をすればよい事項(労働基準法89条3号の2)とされていることからも明らかな通り,労働条件として必須のものではなく,それを支給するか否か,いかなる基準で支給するかがもっぱら使用者の裁量に委ねられている限りは,任意的恩恵給付であって,賃金とは位置づけられていません。したがって,退職金の支給条件の一内容である減額・不支給条項は,退職金の成立要件に関する規定の有効性の問題となり,賃金全額払いの原則(労働基準法24条1項)に反するものではありません。そして,退職金の功労報償的性格に照らせば,懲戒解雇の場合の減額・不支給条項が一般的に公序良俗違反とされることもありません。ただし,当該条項の適用が認められるためには,減額条項については,それまでの勤続の功を減殺してしまう程に信義に反する行為があった場合,不支給条項については,それまでの勤続の功を抹消してしまう程に著しく信義に反する行為があった場合に限られると考えられています(菅野和夫『労働法第9版』423頁)。

 なお,勤続年数と退職事由によって支給率が定められている退職金の支給の有

無・額を経営状況によって取締役会で個別決定できるように変更することは,賃金

の後払い的性格に照らして合理性は認められません(菅野和夫『労働法第9版』239

頁)。裁判例にも,そのような就業規則の変更につき合理性を否定したもの(札幌地

判平成14・2・15労判837号66頁)があります。退職金の支給額を変更したい場合

には,前述した就業規則変更に関する判例法理に従う必要があります。

 

3 減額・不支給条項の適用範囲

(1)退職後に懲戒解雇事由が発覚した場合

 社員が突然,退職届を提出し,辞職してしまった後,懲戒事由が発覚した場合,会社は退職金を減額ないし不支給とすることはできるでしょうか。

 この点,労働者の辞職の意思表示から2週間が経過すれば,労働契約は終了します(民法627条1項)。そして,労働契約が終了してしまった以上,懲戒解雇の余地はなくなります。

 退職金減額・不支給条項の定めが「懲戒解雇をした場合」と規定されていれば懲戒解雇をしなかった場合においては,退職金を減額ないし不支給にする根拠は見出せなくなります。

 そこで,就業規則ないし退職金支給規程などに「懲戒解雇により退職するもの,または在職中懲戒解雇に該当する行為があって,処分決定以前に退職するものには,退職金は支給しない。」などと規定しておくことが必要です。

 懲戒解雇相当行為があったとしても,懲戒解雇をした事実がない以上,懲戒解雇相当行為が存在することのみを理由として退職金の支払いを拒むことはできないとする裁判例(東京地判平成6・6・21労判660号55頁)もあります。

(2)自己都合退職の場合

 懲戒解雇事由があるものの,労働者の将来の職業生活の配慮から,温情的に自己都合退職扱いとすることがあります。この場合,退職金の減額・不支給条項の適用はあるでしょうか。

 この場合も退職金減額・不支給条項の定めが「懲戒解雇をした場合」と規定されていれば懲戒解雇をしなかった場合においては,退職金を減額ないし不支給にする根拠は見出せなくなります。

 そこで,就業規則ないし退職金支給規程などに「懲戒解雇により退職するもの,または在職中懲戒解雇に該当する行為があって,処分決定以前に退職するものには,退職金は支給しない。」との規定を置くか,または「懲戒解雇に該当するが手続上他の形式により退職させた場合も含む。」などの規定を置くことが必要になります。

 農業協同組合の職員に懲戒免職処分の実質的要件があり,組合役員会において懲戒処分に付すことを決議したが,組合長が職員の将来を考え,決議に反し依願退職処分をした場合に,同処分は有効なものであり,職員には退職金請求権があるとした判例(最判昭和45・6・4判タ251号178頁)があります。この判例を前提とすれば,自己都合退職をした労働者から後日,退職金の請求を受けないためには,自己都合退職させる際に,実質は懲戒解雇に該当する行為があったが,手続上,自己都合退職の形式を取ったにすぎず,退職金不支給・減額条項の適用を受けることは当然であることを認める旨の確認書をとっておくことも検討すべきと思われます。

 

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