(続き)・・全ての動物には日常的に摂取している「主食」というものが存在します。例えばライオンは草食動物の内臓や肉、シマウマは草原の草、サルやチンパンジーは果物や昆虫類、といった具合です。それでは我々人間の「主食」はいったい何でしょうか。日本人だと米、欧米人だと小麦、と答えるかもしれません。共通しているのは「穀物」という点です。しかし実は、穀物は人間の「主食」ではなかったのです。
人類の歴史は500万年とも700万年とも言われていますが、穀物を栽培する「農耕」が始まってからはまだ約1万年しか経っていません。それ以前の数百万年の間、人類は穀物以外の別の食物を食べていました。農耕以前の人類は「狩猟・採取」の時代が続きました。野原に自生している穀物も食べていたでしょうが、それはほんの少量で、その環境で容易に入手できる食物を食べていたはずです。
人間はもともと「雑食動物」です。草食動物のように草原の草だけでは生きられず、肉食動物のように動物の肉だけでも生きられません。人体はビタミンCを産生できないので、生の植物からビタミンCを摂取する必要があります。また必須アミノ酸や必須脂肪酸を取り入れるためには、肉や魚などの動物性食品も必要としています。つまり動物、植物由来の食材を合わせて食べていかなければならないのです。
人類学の研究によって、初期人類が何を食べていたかが明らかになってきました。数百万年前にサルから分離した人類は、果物や野菜など植物性食材と並んで、動物を主食に加えるようになりました。但しライオンやハイエナよりも非力な人類が野生動物の肉をそのまま食べることは出来ませんでした。代わりに食べていたのは骨の中の「骨髄」である、という説が今、注目されています。
骨髄にはタンパク質や脂質、鉄分などが豊富ですが、糖質は殆んど含まれていません。初期の人類は二足歩行を活かし、手を巧みに使って石でもって骨を叩き割り、中の骨髄をほじくり出して食べていたというのです。時代が下って石器や武器を開発すると、動物や鳥を仕留めてその肉や内臓を食べるようになりました。また漁法が工夫され魚や貝も食べるようになりました。そのようにして食のレパートリーが豊かになったのです。
その一方で、自生している果物や野菜、野草、キノコ類、海藻類なども食べていたはずです。これら動植物の自然の食材に共通しているのは、タンパク質や脂質をそれぞれの比率で含む一方、糖質をそれほど多量には含んでいない、という点です。食料が乏しいだけでなく食材自体が糖質をそれほど含まないため、血糖値を低下させるインスリンの出番は、めったに巡って来なかったのです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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