(続き)・・そのように主要なエネルギーの多くを「糖質」から摂るべきとする糖尿病の専門家の主張は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。我々がよく耳にする話の一つに「人間の主要なエネルギー源は糖質である」というものがあります。特に「脳の唯一のエネルギー源は糖質である」という見方のもと、脳がガソリン切れにならないように、せっせと糖質を補給する光景は、街のいたる所で見ることができます。
その一方で「脂質」は動脈硬化の基なので避けるべき、という通念があります。特に肉の脂肪分はコレステロールが多く、心筋梗塞などの原因になるので減らした方がよい、と半ば信じられています。戦後の日本で生活習慣病が増えたのは、肉などの摂取量が増えた「食の欧米化」が最大の原因だ、と主張する人が少なくありません。そのような見方から、脂質よりは糖質、肉よりはご飯、という方針が打ち出されてきました。
しかしながら人間が最も必要としているエネルギー源は、本当に糖質なのでしょうか。また脳が使用できるエネルギー源は、本当に糖質だけなのでしょうか。実は、脳は糖質以外に脂質も使用することが可能です。それどころか脂質を用いた方が、よりエネルギーの効率が高いのです。全身をみても、脂質を利用できないのはミトコンドリアを持たない赤血球などごく一部の組織だけで、殆んどの部位では脂質の利用が可能です。
人体に於いて「血糖値」はたいへん重要な意味をもっています。赤血球の唯一のエネルギーは糖質であるため、血液中には一定量の糖質が必要です。糖質が欠乏する「低血糖」の状態では赤血球が活動できず、酸素や二酸化炭素を運搬できなくなってしまいます。そのために血糖値は常に70~140mg/dlの間に保たれています。逆に血糖値が180以上の「高血糖」になると、血管壁を傷めるなど様々な弊害が現れます。
具体的には、血糖値を上昇させて低血糖を防止するホルモンがいくつか存在します。アドレナリンや副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、成長ホルモンなどです。野生動物や原始人類は常に「飢餓」と背中合わせで生きていたので、低血糖を防止するセーフティネットが幾重にも用意されています。それに対して血糖値を低下させて高血糖を防止するホルモンは、インスリンただ一つです。
高血糖を抑止するホルモンがインスリンただ一つというのは、それだけ野生動物や原始人類にとって、高血糖に見舞われる場面が滅多になかったことと関係しています。つまり常に食料に恵まれていた訳ではなかったので、血糖値を下げる必要性がそれほどありませんでした。ところが現代人は「飽食」の環境となり、容易に高血糖にさらされることになったため、インスリンへの過度の依存性が生じることになりました・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
あなたの自然治癒力を引き出し心身の健康づくりをサポートします
病気を治したり予防するにあたり、いちばん大切なのは、ご本人の自然治癒力です。メンタルヘルスを軸に、食生活の改善、体温の維持・細胞活性化などのアプローチを複合的に組み合わせて自然治癒力を向上させ、心と身体の両方の健康状態を回復へと導きます。
このコラムに類似したコラム
猛威を振るう花粉症!スギ花粉量増加に勝るとも劣らない現代の悪化要因とは? 吉野 真人 - 医師(2013/03/13 09:00)
糖尿病は食べて治す!「糖質制限食」の有効性と工夫とは?(4) 吉野 真人 - 医師(2012/09/20 09:00)
糖尿病は「食べて」治す!カロリー以上に大切な要素とは?(5) 吉野 真人 - 医師(2012/09/09 09:00)
花粉症もぜんそくも怖くない!?アレルギー体質改善大作戦(2) 吉野 真人 - 医師(2011/01/19 07:00)
もう怖くない!?目から鱗の新型インフル対策マニュアル(9) 吉野 真人 - 医師(2010/10/11 07:00)