(続き)・・過敏性腸症候群に限らず、便秘傾向の人の腸内環境は概して良くありません。便秘の原因を調べるために大腸の内視鏡検査を行なうと、腸管壁に宿便がびっしりと張り付いていて、壁面もうっ血してどす黒くなっています。そして腸の動きが悪くなりスムーズな蠕動運動がみられません。健康な人の腸壁が薄いピンク色をしていて、小刻みな蠕動運動を繰り返しているのとは対照的です。
便秘を繰り返していると腸内でインドールやスカトール、フェノールなどの有毒なガスが発生し、それが腸壁を介して血液中に吸収され、肝臓などの組織に運ばれます。肝臓である程度は解毒されますが、解毒し切れなかった有毒物質は全身を巡り、様々な悪い作用を及ぼします。例えば皮膚の状態が悪化して吹き出物やクマ、シミ、色素沈着などの原因となり、粘膜では難治性の口内炎や気管支炎、膀胱炎などの原因となります。
腸内に宿便が溜まった状態が続くと、腸壁の細胞そのものに変異が生じます。上記の有害物質には発がん性があるため腸壁にポリープが形成され、しばしば多発性に生じます。そしてこれを放置した場合には、何年か後にガンへと変化し、大腸ガンへと発展します。近年ではガンの死亡率の上位に大腸ガンが名を連ねるようになってきていますが、その背景として便秘に代表される腸内環境の悪化があることは確実です。
その影響は大腸ガンの増加だけに留まりません。大腸ガンを含めて日本人のガンによる死亡率は上昇の一途をたどっていますが、その原因の一端として、腸内環境の悪化とそれによる発がん性物質の体内に於ける増幅が指摘されています。宿便の溜まった腸内で多量に作られた発がん物質は血液中に溶け込み、全身の臓器や組織に届けられます。その結果、すい臓ガンや乳ガン、前立腺ガンなど様々なガンの増加を招いています。
便秘はガン以外にも様々な病気や体調不良の原因となります。腸内で発生した有害物質は炎症の源にもなり、潰瘍性大腸炎やクローン病など炎症性腸疾患の原因となります。潰瘍性大腸炎は慢性に経過する原因不明の腸炎で、下痢や血便、腹痛などに繰り返し悩まされる難治性の疾患で、最近は増加傾向ですが、便秘など腸内環境の悪化と密接な関係のあることが証明されています。
腸以外の全身への影響も無視できません。腸内環境が悪くなると花粉症や気管支ぜんそく、アトピーなどアレルギー疾患の引き金になるほか、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肥満などの生活習慣病に罹患しやすくなることが統計的に指摘されています。腸内で発生した有害物質は肝臓である程度は解毒されますが、解毒能力を超えると脳に悪影響を及ぼし、うつ傾向や認知症などの発症要因となり得ます・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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