(続き)・・脳梗塞や心筋梗塞など血管性の疾患が増加していることは、その背景となっている動脈硬化が進行しやすい状況になっていることを示唆します。現代の日本に於いて、なぜ動脈硬化が進行しやすくなっているのでしょうか。それを考える上で一つの事例を提供しているのが沖縄県です。沖縄県はかつて世界的な長寿地域で、国内外から研究者などが視察に訪れていたものでしたが、戦後まもなくこの長寿の伝統に変化が生じました。
それは特に40~50代の中年男性世代に顕著にみられました。働き盛りの中年男性が、次々と心筋梗塞などの病気で倒れ、亡くなっていったのです。そのために100歳の祖父が50歳の孫の葬式を出す、という「逆縁」が日常茶飯事となりました。かつて男女とも日本一だった平均寿命も、男性では何と29位と大幅に順位を下げました。世界有数の長寿地域だった面影はなく、むしろ不健康な地域という印象さえ与えています。
その原因の一つは「食生活」の急激な変化です。もともと沖縄料理は豊富な野菜と果物、海藻類、魚介類などで構成されており、たいへん健康的とされていました。ところが戦後、米国の統治下に入ると、米軍が持ち込んだハンバーガーやフライドチキン、フライドポテト、コカコーラなどのジャンクフードが日本本土に先駆けて普及しました。その結果、糖尿病や脂質異常症、肥満などの生活習慣病が蔓延していきました。
それではジャンクフードの本場である米国の状況はどうでしょうか。米国ではガンや心臓病による死亡率が先進国の中でもとりわけ高く、平均寿命は低い方でした。どちらかというと不健康な国とされてきた訳です。原因として、米国民は肉や油脂類、砂糖の消費量が多く、高脂肪、高カロリーの傾向が明らかで、また自動車への依存度が高いために運動不足になりやすいという事情もありました。
そこで70年代から政府や医師会が中心となり生活習慣の見直しが始まりました。肉や油脂類、砂糖の摂取量を減らし、野菜や果物をたくさん食べましょう、という訳です。中でも「5A Day(1日に野菜と果物を5皿以上食べる)運動」の果たした影響は無視できません。またアッパー層を中心に和食への評価が広がり、豆腐や納豆、切干大根といった日本の伝統食が持てはやされました。
その結果、米国では90年代からガンによる死亡数が減少に転じ、続いて心臓病による死亡数も減り始めました。世界に先駆けて推進された禁煙運動や、運動不足を解消するためのスポーツの普及も、その結果を後押ししています。米国は今でも肥満者が多い国には違いありませんが、官民あげての生活習慣改善運動が功を奏し、不健康な国という印象を徐々に解消しつつあるのです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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