
- 村田 英幸
- 村田法律事務所 弁護士
- 東京都
- 弁護士
対象:事業再生と承継・M&A
- 村田 英幸
- (弁護士)
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第3 各取得方法の比較
1 株主との合意による取得
(1)手続
株式会社が株主との合意により当該株式会社の株式を有償で取得するには,あらかじめ,株主総会普通決議(授権決議)によって,次に掲げる事項を定めなければなりません(会社法156条1項)。
(ⅰ)取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては,株式の種類及び種類ごとの数) (ⅱ)株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除きます)の内容及びその総額 (ⅲ)株式を取得することができる期間 (最長1年間まで) |
そして,株式会社は,上記の決定に従い株式を取得しようとするときは,その都度,次に掲げる事項を定めなければなりません(会社法157条1項)。取締役会設置会社の場合には,この決定は,取締役会の決議によらなければなりません(会社法157条2項)。
(ⅰ)取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては,株式の種類及び数) (ⅱ)株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法 (ⅲ)株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額 (ⅳ)株式の譲渡しの申込みの期日 |
この株式取得の条件は均等でなければなりません(会社法157条3項)。そして,会社は,株主(種類株式発行会社にあっては,取得する株式の種類株主)全員にこの株式取得の条件を通知する必要があります(会社法158条1項)。公開会社においては,この通知を公告をもってこれに代えることができます(会社法158条2項)。
会社は,株主からの申込みによりその株式を取得することができますが(会社法159条2項本文),申込総数が取得総数を超えるときは,会社は各株主に対して按分比例で株式を取得することになります(会社法159条2項ただし書)。
株式取得については財源規制(会社法461条1項3号)があります。
(2)メリット
株主総会の普通決議により,会社は株式を取得することができます。
(3)デメリット
特定の株主から株式を取得できるとは限らず,申込総数が取得総数を超えるときは,会社は各株主に対して按分比例で株式を取得しなければなりません。
2 特定の株主からの取得
(1)手続
株式会社は,授権決議で定めなければならない事項の決定に併せて,株主総会特別決議によって,特定の株主から自己株式を取得することができます(会社法160条1項,309条2項2号)。
もっとも,特定の株主だけが自己の所有する株式を会社に取得してもらうことができるとするのでは,株主間の公平を害することになります。そこで,株主総会の特別決議では取得の相手方となる株主の議決権行使は排除されるほか(会社法160条4項),会社は,取得対象外となった株主に対して自らも取得対象に加えた株主総会決議案とする旨の請求ができることを通知しなければならず(会社法160条2項),取得対象外となった株主には売主追加請求権が認められます(会社法160条3項)。
ただし,以下の3つの場合には,他の株主に売主追加請求権は認められていません。
(ⅰ)市場価格以下の価格で取得する場合(会社法161条,会社法施行規則30条)
取得する株式が市場価格のある株式である場合において,当該株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の額が当該株式一株の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えないときは,売主追加請求権は認められていません。この場合,他の株主は市場で売却すれば不利益がないからです。
(ⅱ)非公開会社における相続人から取得する場合(会社法162条)
非公開会社が株主の相続人その他の一般承継人からその相続その他の一般承継により取得した当該非公開会社の株式を取得する場合には,売主追加請求権は認められていません。非公開会社では株式の譲渡に会社の承認が必要ですが,相続その他の一般承継により,株主の変更が行われます。この場合に,会社が当該株主の地位を解消させることは,好ましくない者が株主となることを防ぐことを目的としており,会社の利益であり,他の株主を害さないと考えられるためです。
ただし,当該相続人その他の一般承継人が株主総会や種類株主総会において当該株式について議決権を行使していない場合に限られます。
(ⅲ)定款で定めた場合(会社法164条)
株式会社は,定款で定めることにより売主追加請求権をなくすことができます。
(定款案) (特定の株主との合意による自己株式の取得) 第○条 当会社は株主総会の決議によって特定の株主との合意によりその有する株式の全部又は一部を取得することができる。 2 前項の場合,当会社は会社法第160条第2項及び同条第3項の規定を適用しないものとする。 |
特定の株主から取得する場合にも財源規制(会社法461条1項3号)があることは同様です。
(2)メリット
原始定款で売主追加請求権を排除していれば,会社は,株主総会の特別決議により,特定の株主からのみ株式を取得することができるようになります。
また,非公開会社の場合には,株主の相続人その他の一般承継人から株式を取得する場合には,売主追加請求権の適用がないので(会社法162条),会社は特定の株主からのみ株式を取得することができます。この場合,後述の,相続人等に対する売渡し請求(会社法174条)の場合と異なり期間制限がありませんから,会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年後でも株式を取得することができます。ただし,当該相続人が株主総会又は種類株主総会において議決権を行使する前でなければなりません。
(3)デメリット
特定の株主から取得する場合,原則として,他の株主には売主追加請求権が認められています。確かに,売主追加請求権を定款で排除することができますが(会社法164条1項),株式の発行後に定款を変更して当該株式について売主追加請求権を排除するためには,当該株式を有する株主全員の同意が必要になります(会社法164条2項)。したがって,株式の発行後に,売主追加請求権を排除することは極めて困難であることが予想されます。
非公開会社において株主の相続人その他の一般承継人から取得する場合には,売主追加請求権の適用はありませんが(会社法162条),後述の,相続人等に対する売渡請求(会社法174条)の場合と異なり,あくまで株主の相続人その他の一般承継人と合意により株式を取得する必要があります。
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